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7月のコーヒーは
 たっぷり愛し合い、たっぷりと睡眠をとった休日の昼下がり。朝メシっつーには遅すぎるメシを食いながら、レンと今日の予定をのんびり話し合う。
 朝昼兼用になりそうなメシのメニューは、具だくさんのサラダうどん。
 買い物にも行くつもりで、冷蔵庫の整理を兼ねて野菜もハムも贅沢に使ったサラダうどんは、温泉卵も合わさってすげー美味い。オレもレンも2杯ずつ食って、疲れの残る体に栄養を満たした。
 疲れっつっても、心地よい疲れだから問題ねぇ。
 夜通したっぷりイチャついて、不足してた恋人成分も補えたし、気力も体力も十分だ。
 レンも満足したんだろう、いつもより血色がよくて、ツヤツヤしてる。
「つ、ツヤツヤ、は、タカ、でしょ」
 拗ねたように上目遣いで文句を言われたけど、そういう仕草も抜群に可愛いから問題なかった。
 レンはいつも可愛くて色っぽくて最高だ。
 一緒に作ったサラダうどんも美味い。そして、レンの淹れたコーヒーも美味い。
 今朝のコーヒーは、スッキリ目の浅煎りブレンド。ローストが浅いと苦みも浅くなるので、食後に軽く飲むには丁度いい。
 ガツンと目を覚ましてぇなら深煎りの方がいいらしいけど、今日のオレは目覚めもバッチリだし。濃厚な苦みは必要なかった。

 コーヒーといえば、今日はこれから埼玉の例のロースターに行く予定だ。
 そろそろ6月も終わり。来月のスペシャルコーヒーを見繕わなきゃならねぇ。毎月のことだし、変わり映えもしねぇ行先だけど、レンと一緒に出掛けると思うと楽しいから不思議だ。
 ラフなTシャツにジーンズっつーペアルックで、レンと一緒に電車に乗り、駅からの道をゆっくりと歩く。
 梅雨の晴れ間、頭上には青空が広がって、じっとりと蒸し暑い。
「まだ蒸し暑い、ねー」
「そーだな、早く梅雨明けねーかな」
 そんな会話を交わしながら、並んで歩く住宅街。家々の庭先に色んなアジサイが咲いてて、梅雨だなぁとしみじみ思う。
「あ、カタツムリ」
 ふひっと笑いながら、ちょんと触れてカタツムリをからかうレンがすげー可愛い。
 青やピンク、白なんかのアジサイを眺めながら、「キレイだ、ねー」って笑う横顔も可愛い。

 やがて馴染みのロースターの看板が見えて来ると、心なしかレンの足が早まった。
「こんにち、はー」
 店のドアを開けると、毎度ふわりとコーヒーのニオイに包まれる。
 「おー」と返事してオレらを迎えたのは、2代目ロースターの巣山だ。今日のエプロンはアジサイにも似たキレイな色の青で、相変わらず妙なトコに気を使ってる。
「今日はどんなの探してんだ?」
 巣山の問いに、「あの、ねー」と笑顔で答えるレン。ロースターとバリスタ、職種は違うのけどコーヒーの専門家同士、気が合うみてーでちょっとムカつく。
「今月は苦いのかな」
 2人の間にずいっと割り込むように身を挟むと、巣山に「うわっ」と嫌な顔されたけど、構わずにそのまま会話を進める。

「酸味控えめで苦みの強いヤツ、どれ?」
 店頭にずらっと並んだ各種の豆を見回しながら訊くと、巣山はちょっと肩を竦めて、「そーだな」と話に乗って来た。
「パッと思いつくならコレかな」
 そう言って巣山が出して来たのは、マンデリンとトラジャの2種類。
 マンデリンは、ブルーマウンテンが有名になる前までは「世界一」とか呼ばれてたらしい豆だ。苦みとコクが強いのが特徴で、確か前にも店で出したことがある。
「マンデリンは前に出したよな」
 念の為にレンに訊くと、「出した、ねー」ってうなずかれた。
「じゃあ、トラジャ試してみるか」
「うんっ」
 レンがうなずくのを見て巣山の方に視線を移すと、巣山は「はいよー」と軽く答え、さっそく豆を挽き、ペーパーフィルターで淹れてくれた。
 豆に貼られてるレーダーチャートによると、苦みとコクが強めで、酸味は弱め。

「これは中浅煎りな。もっと深めにローストしたのもある」
 巣山のそんな説明を聞きながら、淹れたてのコーヒーの紙コップを受け取る。
 先月買ったコロンビア・コロナみてーな甘ったるいチョコバニラじゃなくて、もうちょっと爽やかなフローラルの香り。
 一口飲むと、ほんのり甘くてぐっと苦い。コクが後に引くけど、キレはよくて、なかなか美味い。
 もっと深いローストだと、もっと苦いんだろうか? オレならそっちでもいーけど、買うのは店に出す用の豆だし。こんくらいの方が、人を選ばなくていい気もする。
「美味いんじゃねぇ? オレは好きだ」
 正直な感想を告げると、レンもちびちびと味わうように飲みながら、「いい、ね」と顔をほころばせた。
 巣山が淹れてこんだけ美味いんなら、レンが淹れたらきっともっと美味いんだろう。

「パプアニューギニア産の深煎りのも、結構キレがよくて苦み強めなんだけど……って。聞いてねーな」
 巣山が背景で何やらぼやいてたけど、豆が決まれば用はねぇ。
「タカ、は、苦いの好き、だよ、ね」
 ちびちび飲みながら語るレンに、「まーな」とうなずき、ふわふわの髪を撫でる。
 仕入れの契約を済ませば、また2人でデートの続きだ。
 外は蒸し暑いけど、汗ばむレンも可愛いし、青空はキレイだし、梅雨の晴れ間も悪くねぇ。アジサイを背に笑うレンを写真に撮るのもいいなと思った。

   (おい、お前ら、聞いてるか?)

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