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サプライズのケーキ
 レンがむふーむふーとうるさいので、日曜に内緒でケーキを買ってやることにした。
 ケーキセット用のケーキが閉店までになくなんのはいつものことなのに、今回はヤケにうらみがましかったから、仕方ねぇ。そんなにアレが食いたかったんだろうか?
 うちに運ばれるケーキは、栄口の店で通常に売られてるものより安くはして貰ってるけど、その代わりちょっと小さめだったり、試作品だったりがほとんどだ。
 レンがこだわってたあのチョコミントケーキは試作品だったみてーで、土曜にもちょっと改良されたヤツがうちに来た。
「ふおっ、これっ」
 そう言ってはしゃいでるレンは可愛かったけど、残念ながらそれも全部売り切れで、土曜の落ち込みようはヒドかった。
 落ち込みっつーか、ガッカリっつーか。むふー、と拗ねてて、機嫌取るにも一苦労だ。

 日曜にケーキっつっても、うちのカフェの開店時間は栄口んとことほぼ一緒だし、わざわざケーキを買いに行く暇もねぇ。
 バイトが入ればちょっとは暇ができるけど、レンを置いて店を出るとか、よっぽどじゃねーと考えらんねーし。バイトに金を渡して適当に買って来さすのも、なんか面白くねぇ。
 結局、朝にケーキの搬入する時、栄口んとこのバイトにこっそり金を渡して、「ケーキ4つ、閉店頃に持って来て」って頼んでおくことにした。
「毎度−」
 空になったパッキンを抱え、準備中のカフェを出て行くケーキ屋のバイトを「ちょっと待て」って追いかける。
「ミントチョコのアレって、販売はしてねーの?」
 金を渡しながら訊くと、「ないですねぇ」って言われた。
 まあな、試作を重ねて満足いくものができてから、店頭に並べようっていう栄口の気持ちも分かるから、仕方ねぇ。
「あれ、気に入っちゃいました?」
「いや、1個も余んねーから食ってねーんだけど、気になってさ」

「うちのケーキに外れはないですからねー」
 ちょっと自慢げに胸を張るバイトに、「まーな」と軽く同意する。
「じゃあ、仕方ねぇ。その外れのねぇケーキ、お任せで4つな」
「閉店頃ですね」
「よろしく」
 そんな会話をバイトと交わし、開店準備中のカフェに戻る。
 レンは既に厨房に戻って、ランチプレートの準備をしつつ、サンドウィッチを作ってた。
 できたサンドウィッチは、ケーキケースの下の段に入れて保存する。ランチプレートは1日10食までっつー限定だから、ホントに10食用意するだけでいいけど、サンドウィッチは制限がねーから、日によっては材料がなくなるまで作り続けることもある。
 忙しい時に重なると、ホントに忙しいから、今作っておくに越したことはねぇ。
「できたヤツ、ケースに入れとくぞ」
「分かっ、た」

 レンの返事を聞きつつ、山盛りのサンドウィッチをケーキケースにどんどん並べる。
 ケースの引き戸を開ける度、ふわっとケーキのニオイが立つ。
 今日のケーキは、パイナップルのケーキとチェリーのパイ、キウイとヨーグルトのムースの3種類。それをちらりと眺めつつ、閉店後の事をちらりと頭に思い浮かべる。
 お任せで頼んだケーキ4つ、一体どんなのが来るだろう?
 それを見て、レンはどんな顔をするだろう?
 にへっと可愛い笑みを浮かべて、「タカ、大好き」つって抱き着いてくれたら嬉しい。
 まあ、恥ずかしがり屋のレンのことだから、バイトがいる前で抱き着いたりはしてくんねーけど、だったらオレが抱き着いてもイイ。
 厨房を振り向くと、サンドウィッチを真剣に作ってるレンがいる。
 コーヒー1杯を淹れんのも真剣。フードメニューを作んのも真剣。勿論、ティーパックで紅茶を淹れんのも真剣で、そういうとこがスゴくて可愛い。

 明日は定休日だから、昼過ぎまでゆっくりしてから、巣山の店に来月のコーヒーを見繕いに行こう。
 7月のコーヒーは何にしよう?
 ランチプレート用のウィンナーを茹でながら、冷凍のブロッコリーと人参の袋を冷凍庫からガサッと取り出す。
 「ムリしない」のが決まりのカフェだから、野菜の仕込みも無理しねぇ。
「でき、た」
 サンドウィッチを作り上げたレンに「お疲れ」と声をかけると、レンは「まだまだ」ってニカッと輝くような笑みを浮かべた。

   (タカ、ありがとうっ)

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