Season企画小説 そう禁断でもない関係・1 (2013VD・にょた注意) ※三橋が女の子です、ご注意下さい。 ※このお話は、禁断の関係、続・禁断の関係 の続編になります。 埼玉の住宅街に、その家はあった。 少し古い2世帯住宅で、それを壊して新築を建て直すつもりで買ったらしい。 嫁の職場に合わせて、ポンと家を買ってやる父親も父親なら、「この古い家のままでいいよ」と建て替えを遠慮した息子も息子だ。 与えて、甘えて、遠慮して……。勘当の末に和解したっつー、親子の関係性がうかがえた。 車を家の前に停め、助手席に置いてあった段ボールを持ち出す。 荷物を抱えたまま、ピンポーンと呼び鈴を鳴らすと、兄嫁が出た。 「あら、こんにちは」 応対する兄嫁は、見かけ上愛想良くしてるが、顔がこわばってんのを隠しきれていねぇ。 歓迎されてねーのは元から知ってっから、別に不愉快とも思わねぇけど。 「廉は留守なのよ。学校に行ってるの」 そうけん制するように言われたが、「そうですか」とスルーしておく。 「今日は仕事でこっちに来たんで。ついでに、兄貴の忘れ物を届けに寄っただけです」 オレはそう言って、預かって来た荷物を義姉に押し付けた。 中身は知らねぇ。 ホントに忘れ物なんか、それとも内緒の差し入れの類か、その辺のコトも興味ねーし。 ただ……それだけの用事で来た訳じゃなかった。 「ところで来週なんですが……」 オレはついでのような顔をして、兄嫁に旅行の話を切り出した。 建国記念日を利用した、3泊4日、温泉旅館への宿泊。 「廉ちゃん、この間、冷え症だって言ってたから。丁度いいと思って」 廉というのは、目の前にいる義姉にそっくりな娘。 今年17になる、高校生。 オレが女にした――表向きは「姪」にあたる少女だった。 本人にはまだ教えてねーけど、血の繋がりは、ない。 「勘当された長男の代わりに、跡継ぎに」 そう言われて養子に出されたのは、12歳の時だった。 行き先は、群馬の遠い親戚の家。 それまで住んでた安アパートとは違う、大きな日本屋敷だった。 実の両親はその後、どこかに引っ越して行ったらしく、それっきり会ってねぇ。 未練を断ち切らせるためか、逃げ場所を失くすためなのか、真意は知らねぇ。ただ、オレの養子先から、大金を貰ったらしいってのは噂に聞いた。 ちょうど小学校を卒業してすぐだったので、中学からはその家の経営する、私立校に通うことになった。 男子部と女子部に別れた中高一貫校で、胸元に校章のついた白いブレザーの制服だった。 金持ち学校だとすぐに分かった。 この学校を継ぐために……養子に貰われて来たのだと。 厳しくしつけられた。勉強も、作法も。 英才教育を受けさせられ、経営学を叩き込まれた。 学園では「理事長の子」と肩書で呼ばれ、教師からも生徒からも、そう振舞うように求められた。 幸いにも頭のデキは良かったみてーで、勉強に不自由することはなかった。 成績優秀、文武両道、品行方正。そんな四字熟語を引っ提げて、オレはそのまま地元の大学に進学した。 首都圏の、もっとレベルの高い大学も狙えたが、養父から許可が下りなかった。 首都圏に進学した長男が、都会の悪い女に引っかかったからだと……これも噂で聞いたことだ。 その長男と和解したと聞いたのは、翌年。 妻と妻にそっくりな娘を伴い、実家に戻って来た義兄は、10年近くの空白をあっという間に埋めてしまった。 誰からも何も言われなくても、オレの役割が終わった事は明白だった。 そういう負い目もあるんだろうか。長男夫婦は8年経った今でも、オレに対して遠慮気味だ。 大事な一人娘を、3泊4日の旅行に連れて行くからと話しても、面と向かって反対できねぇ。 かつて「悪い女」と呼ばれてた兄嫁だって、オレの目の前で強張った笑みを浮かべるだけだ。長男の妻というよりは、娘を持つ母の顔をして。 娘とオレとが肉体関係にあることを、彼女は薄々気付いてるだろう。 12歳も下の少女をたぶらかして。処女を奪い、男の味を教え込んで。はた目から見ても、オレは十分悪い男だ。 だが。 「泊まりの旅行なんて……」 兄嫁、三橋尚江はオレの顔をじっと見たまま、強張った笑みを浮かべた。 「絶対ダメよ」と言えねぇところが、彼女の長所でもあり短所でもある。 けど、悪ぃな。あんたの意見なんか、最初から聞く気ねーんだよ。 「大丈夫ですよ、義姉さん」 オレは精一杯爽やかに、兄嫁に笑いかけた。 「廉ちゃんも子供じゃないんですから、心配いりませんって。それともオレが信用できませんか?」 我ながらズルイ言い方だ。 そう言ってやると、この女は肯定できねぇ。面と向かって「信用できない」って言える程、肝は座ってねぇらしい。 ただ、隠そうとしてるみてーだけど、警戒してんのは丸分かりだ。 人の話を鵜呑みにしねぇ、それはこの女がそれなりに苦労してきた証拠でもある。 いくら人がよくても、「お嬢さん」にはなりきれねぇ。 まあ、それはオレも多分、同じなんだと思うけど。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |