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Season企画小説
田島君、バッセンで出くわす (2012田島誕)
※この話は、拍手連載シリーズの番外編になります。時間的には97話と98話の間ぐらいです。パラレル設定に付き、ご注意下さい。

●田島:高校3年 ●三橋:大学2年 ●阿部:社会人・24歳 ●花井:大学2年 ●シュン君(阿部先輩)大学2年 ●巣山:社会人・アラサー
…になります。




 最近すっかり馴染みになった、バッティングセンターの自動ドアをくぐる。
 土曜の夕方、そろそろ混み始める時間帯だ。
 中に入ると、金属バットの音がキーン、カキーンと賑やかに響いてて、その音聞いただけでワクワクと胸がはやる。
 やっぱ、野球が好きだなぁと思う。
「ちわっ」
 受付カウンターに挨拶すると、元プロでスタッフの巣山さんが「よっ」と声をかけてくれた。
 それが何か気安くて、10歳以上年が離れてるのに「仲間」って認めてくれてる気がして、結構嬉しい。

 花井先輩や阿部先輩らが、仲間を集めて野球チーム作ろうとしてるって聞いたのは、夏休みの終わりのことだ。
 それを聞いたのも、この店だった。
 1も2もなく「やる!」って申し込んだ。泉もだ。巣山さんまで「オレも」って言ったのはビックリしたけど……それで、オレ達は「仲間」になった。
 花井先輩達ともう一回、っていうのも魅力的だったけど、なによりスゲーって思ったのは、エースだ。

 三橋廉。
 花井先輩が、大学の野球部でバッテリー組んでる相手なんだって。
 オレらが高1の時の、甲子園群馬代表。三星のダブルエースの1人。
 「ダブルエース」っていう言葉には覚えがあるんだけど、正直、その頃の印象は記憶にない。
 ただ、実際の投球は、なんていうかスゴかった。バットを振らされて、打たされて、完敗だった。
 やっぱ……甲子園出場投手っていうのは、スゲーんだな。


 券売機でさっそくチケットを買おうとしたら、そのすぐ向こうに人だかりができていた。
 ストラックアウトのコーナーの前だったから、もしかして……と思いながら近付いてみる。
 よく見えねーけど、電子音が聞こえた。ピーっていう、的中の音。同時に、「おおー」って野次馬がどよめく。
「すごーい」
「やれば当たるもんなんだー」
「出るんじゃない? パーフェクト!」

 ちらっと受付カウンターの方を振り向くと、巣山さんがニヤッと笑って、こくんとうなずく。
 ってことはやっぱり、投げてるのは……。
 あー、ちょっと見てーなー。野次馬スゲーな。どっかから覗けねーかなー?
 そう思って後ろをうろうろしてる間にも、何度か電子音が鳴って――最後にはド派手なファンファーレ。歓声と共に拍手まで起こった。
「スゲー、パーフェクト!」
「おめでとう!」
 歓声の中、照れ臭そうに出て来たのは、やっぱ思った通り、三橋さんだった。
 初めて会った時も、この人、ここでこうしてパーフェクト出してたんだよなぁ。

 オレ、そんなにここに通ってるって訳でもないけど、パーフェクトなんて出してる人、この人以外に見た事ねぇ。
 っていうか、ここで働いてる巣山さんも、あん時「初めて見た」って言ってた。
 だよなぁ、そんな簡単に出るモンじゃねーよな。
 球威や球速は、高校生にももっとスゲーヤツいると思うけど。やっぱ、技術って言うか……制球力は、この人レベルな選手って、そうそういないんじゃねーのかな?
 そんな投手の背中守って、月末には試合するんだ。そう思うと、なんか楽しみで嬉しくて仕方ない。

「ちわっ」
 挨拶して近寄ったら、「あ、田島、君」ってニコッと笑顔向けられた。
 三橋さんの真後ろでボディーガードみたいにしてる人も、オレに気付いたみてーで「よー」って手を上げてくれる。阿部先輩のお兄さんで、OBの阿部さんだ。
 プロ行った榛名さんと組んでたキャッチャーで、「伝説の捕手」とか言われてる。
 どんな伝説なのかっつーと、諸説あるんだけど……とにかく、オレらのチームで三橋さんとバッテリー組むらしい。
 三橋さんがいるなら、当然いると思ってたけど……ホント、予想を裏切らないな。

「認定証でーす」
 スタッフにカウンターから呼ばれて、三橋さんと阿部さんは仲良くそっちに歩いてく。
 その後ろ姿を見てると、仲いいなぁってつくづく思う。
 バッテリーは夫婦だとかいうけど、オレの野球人生の中で、ここまでベッタリなバッテリーって見たことない。
 まるで付き合いたてのカップルみてーだけど……。

 と、ぼんやり眺めてたら、「田島、君」って手招きされた。
 三橋さんの手には、金色のバッティングカードが握られてる。
 券売機にも写真が貼ってあるけど、その金色のは1万8千円のカードだ。100回分ってヤツ。
「おー、スゲー」
 そういやパーフェクトの景品は2万円分だったっけ?
 素直に感心して覗き込んでたら、「はい」って手渡されてビックリした。

「誕生日、おめで、とう」

「えっ……」
 一瞬、返事ができなかった。
 そしたら、三橋さんはキョトンと首をかしげて、硬球のバッティングブースの1つを指差して言ったんだ。
「は、花井君から聞いたよ。誕生日近い、って。だから、おめで、とう」
 そこには確かに花井先輩がいて、熱心にバットを振っていた。

「え、でも、こんな高いのいーんスか?」
 恐る恐る訊いたら、三橋さんは変な顔でうひっと笑って、「300円だよっ」って。
 300円……確かに、そうかも知んねー。
 つか、格好イイ!
「あざっす!」
 大声で頭を下げると、その途端、背後で派手なファンファーレが鳴った。
 ホームランのだ。
 探すまでもなく、誰が打ったのか分かった。花井先輩が、得意そうな顔で笑ってる。

「スゲー!」
 スゲーと思うけど、同時に「オレだって」って思う。
 オレだってホームラン打てる。つーか、ゲンミツに打つ!

 オレの心が読めたんだろうか、三橋さんがオレに言った。
「田、島君、もホームラン……」
 ホームラン、打って見せてってか? そんな期待されたら、打つしかねーよな。
「あざっす。打って来ます!」
 オレはもっかい頭を下げて、貰ったばかりのバッティングカード握り締め、花井先輩のいるブースに並んだ。

 その後、巣山さんからはバッセン特製の、ロゴ入り粗品タオルを。他の仲間からは、次の練習の時にジュースやケーキを貰ったけど。
 バッセンで、花井先輩よりたくさんホームラン連発して、「くそっ、4番は譲らねーぞ」って悔しそうに言われたのが、なんか一番嬉しかった。

  (終)

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