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Season企画小説
オレコーデ・前編 (ショップ店員阿部×高1三橋・2017バレンタイン)
「あの、すみま、せん」
 乱れたシャツの平積みを整えてる作業中、そんな気弱そうな声を耳にして、「いらっしゃいませ」と返事する。営業スマイルを浮かべながら振り向くと、10代半ばの少年だ。
 中学生か、高校生? もう下校時刻かと思うと同時に、可愛いな、とも思った。色白の顔をとんでもなく真っ赤にしてて、何つーか、初々しい。
「何かお探しですか?」
 手早く畳んだシャツを棚に戻し、少年に向き直ると、彼はもじもじとためらいながら、「ふ、服……」と口ごもった。
「あ、あの、服、オヤに買うように、って言われて。どういうのがいいか、分かんなく、て……」
 言いながら、ウールコートの胸元をぎゅっと掴んでるトコ見ると、1人での買い物に不慣れなのがよく分かる。
 まあ年齢的に、そろそろ親と一緒の買い物に抵抗感出てくる頃だよな。かといって、いざ1人でっつーと、途方に暮れる。そういう客は珍しくなくて、成程なぁと思った。

「服って、何買うの? コート? ニット? シャツ? ボトムスは?」
 砕けた口調で訊きながら、少年の全身をざっと見回す。
 身長は170cmよりちょっと低いくらいだろうか。今着てるダッフルコートはほんの少しキツそうだけど、これは多分ジュニアだからだ。メンズならMでいいだろう。
「コートと、えと……ぜ、全部、で」
 赤い顔でごにょごにょ言う少年に予算を訊くと、親から2万渡されたらしい。うちの店だとそんな高ぇ服は置いてねーし、セール品中心に選んでやれば、確かに全身揃うだろう。
「じゃあ、まずはコートから選ぼうか?」
 オレの提案に、少年はこくこく素直にうなずいた。柔らかそうな薄茶色の猫毛が、それに合わせてひょこひょこ揺れる。何だか可愛い。
「ど、どういうのが似合うか、オレ、分かんなく、て」
 赤い顔で上目遣いに見つめる、その仕草も可愛いと思った。

 2月の夕方のショッピングセンター、レストランが並ぶ1階やフードコートのある2階に比べ、服飾店が並ぶ3階は静かだ。
 店内には、客よりもスタッフの数の方が多い。商売としてはどうかと思うけど、今はそれが幸いだ。少年の服を選ぶのに、ずっと付き添うことができた。
「あの、お任せ、で」
 って。流行りのことは何も分かんねぇっつー少年は、オレ好みのセレクトにして欲しいみてーなことを言って来た。
 じゃあ、ってんで選んだのは、ダークブラウンのショートモッズ。逆に中に着るシャツは、パステルブルーとアップルグリーン、アクセントにグレープフルーツグリーンの入った、トーンオントーン。
 春の新色でセール外だけど、こんな鮮やかなシャツは、コイツみてーに甘い顔立ちじゃねーと似合わねーんじゃねーかと思う。
 その上に、白とベージュのざっくり目のカーディガンを選び、ハンガーごと少年に押し当てて、似合うかどうかを確かめた。
 フィッティングのサポートすんのはたまにあるけど、いつもより楽しい。
 「お任せで」って言われたのもあるかも。まっさらな素材に、自分で色付けしてるみてぇ。

「ちょっと着てみてよ」
 ウールのコートを預かり、試着室に放り込んでカーテンを閉める。
「どう?」
 声かけて勝手に中を覗き込むと、彼はまだシャツを着てなくて――。
「ひゃあっ」
 そんな可愛い悲鳴と共に、半裸でしゃがみ込む様子が、またすげー可愛くて笑えた。

「ごめんごめん、ごゆっくり」
 取り敢えず謝って、カーテンをキッチリ閉める。
 やがて試着室から出てきた彼は、さっき以上に赤面してて、純情っつーか慣れてねーっつーか、反応が新鮮だ。
「どう、です、か?」
 上目遣いでおずおず訊かれ、「似合うじゃん」と率直に告げる。
「こういう色、自分でもどう?」
 一緒に鏡を覗き込みながら、頭1つ低い位置にある少年に、鏡越しに問いかける。
「い、いい、です……」
 赤い顔でこくこくうなずいてんのを見ると、満更でもなさそうで、こっちも嬉しい。
「な、なんか、オレじゃない、みたい」
 って。照れ臭そうに言われて、ははっ、と思わず笑みが漏れた。

 ボトムスには、インディゴのスキニージーンズ。靴はキャンバスブルーのミッドカットスニーカーを選び、着せてみてサイズをチェックする。
 細い割に意外と筋肉質で、腹筋も割れてて、それでいてマッチョじゃなくて、キレーな体だ。
 尻がきゅっと上がってんのは、何かのスポーツやってんのか?
「意外と鍛えてんな、部活何?」
 足元にしゃがみ込み、スニーカーを履かせてやりながら訊くと、消え入りそうな声で「や、きゅう」って言われた。
「へえ、ポジションは?」
「投、手」
 ぽつりと告げられた言葉に、しゃがみ込んだまま目線を上げる。ちょっとうつむきがちの彼の顔は、やっぱ真っ赤で。新しい服を選んでどうすんのか、唐突に気になった。

「新しい服を一式揃えて、どっか遊びに行くの?」
 訊きながら立ち上がり、再び鏡越しに少年を見る。オレが選んだ服に全身を包んだ少年は、さっきの窮屈なコート姿より、ちょっと大人びてきらめいて見えた。
「もう春休み近ぇもんな。友達とどっか行ったりする訳?」
 ニヤッと笑いかけながら訊くと、「い、え」って小さく首を振られた。春休みは部活だからって、否定する割りには真っ赤で、初々しさにふふっと笑える。
「それとも、好きな子とデートとか?」
「でっ……!」
 赤い顔を更に赤くして、ぶんぶん首を振んのがおかしい。否定はしねーのか、って、ちくっと胸の奥が痛んだけど、気にしねーフリで少年をからかう。

「好きな子いるんだ?」
 くくっと笑いながらの問いに、彼は何も言わなかったけど、恥ずかしそうにするだけで、やっぱり否定はしなかった。

(続く)

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