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Season企画小説
帰って来た花粉の子・前編 (2020ホワイトデー・妖精三橋)
※この話は杉の子レンレン の続編になります。


 杉の成長は、植木鉢より地面への直植えの方が早くてデカい。
 5年で5m、10年で10m、15年で15m……放っとくと50mくらいまでは成長してくこともあるらしい。
 うちの庭に堂々とした杉の木が……って想像すると悪くねぇ気もしたけど、この間TVで、昔庭に植えた杉があまりにデカくなり過ぎて、伐採業者を呼んで云々って話を見た。
 ビミョーに真っ直ぐじゃねーから売り物にはならねーし、チップにするくらいしか使い道ねーし、伐採も重機使って大掛かりで、すげー赤字だって。
 売り物にするために育ててる訳じゃねーし、赤字がどうとか使い道がねーとかはどうでもいーけど、邪魔だから伐採するしか、って聞かされるとゾッとした。
 まあ、花粉で存在感アピールしまくる杉だから、注目度も高ぇよな。近所から苦情が出るのもまあ分かる。
 そういう話を聞いちまうと、群馬から持って帰った杉の挿し木も、このままプランターから植木鉢への一択だ。
 庭に植えちまった方が、水やりとか日に当てるとか面倒じゃなくていいと思ったけど、後々のことを考えると、大木になられんのもどうかと思った。
 そんな訳で、杉花粉の妖精レンから貰った杉の小枝は、未だにオレの部屋のプランターの中だ。

 挿し木してから約1年、水と愛情をたっぷり注いだ杉の小枝は、黄緑色のちっこい葉をちょっとずつ茂らせて、ちょっとだけ背を伸ばした。
 ふらちな雑草もこまめに引き抜き、100均のじょうろでオレが育てた杉の子は、すげー可愛い。
 レレレンレンレン、レレレンレンレン……すっかり癖になっちまったあの歌を口ずさみつつ、今日も杉の子の世話をする。
 今日は挿し木して1年目後のよく晴れた週末、植え替え日和だ。
 部屋を汚さねぇよう庭に出て、マイ移植ゴテと新しい植木鉢、植え替え用の園芸土を用意する。
 育成用のミニプランターと比べて、この新しい植木鉢は厳選に厳選を重ねた高級品だ。杉盆栽に適した深さと大きさ、そして可愛らしさ。この植木鉢にちょこんと植わったちっこい杉は、きっともっと可愛いだろう。
「さあ、引っ越ししよーな」
 さっそくプランターに移植ゴテを突き刺して、根を傷つけねぇよう気を付けながらざっくりと掘り返す。
 1年前は、根なんか1ミリも生えてなかった枝だけど、今では見事なひげ根が生えてて頼もしい。

 指で根っこに軽く触れ、周りの土をパラパラ払う。
「ははは、裸んぼだな」
 一人でにこやかに笑いつつ、土を落とした根っこを見てると――。
「ぴゃあっ、もおおっ」
 そんな甲高い悲鳴と共にぺたんと頭にちっこいモノがへばりついて、心臓が止まるかってくらいビックリした。
「えっ、レン!?」
 いや、レンレンか? いや、ホントの名前はレンだから、レンで間違ってねぇんだろうか。
 取り留めもねぇことを思いつつ、片手を頭の後ろにやって、へばりついた何かを掴み取る。信じらんねぇ思いで見下ろすと、オレの手ん中でそいつはじたじたと暴れて、「はや、くっ」って真っ赤な顔をした。
「早く? 何を?」
 言ってる意味が分かんなくて、でもそれより再び会えた喜びの方が上で、テンションがドンと高まる。

「久々に会えたっつーのに、再会の一言がそれか? 『ただいま』とか言えよ」
 苦笑しつつ掴んだ手を緩めると、レンレンは再び「ぴゃあっ」と可愛い悲鳴を上げて、こてんと転がり、丸くなった。
 体長7〜8cm、頭でっかちの3頭身。相変わらずのちびっこだけど、なんでか下半身裸んぼで、白くて丸い尻がぷりんぷりんと丸見えだ。
 顔は真っ赤なのに尻は真っ白で可愛い。
 ちょんと指先でつつくと、「ぴゃあっ、もおっ」って怒られた。
「なんで丸出しなんだ?」
 くくっと笑いながらの問いかけに、「うえってっ」って答えるレンレン。
「上?」
 顔を上げて青空を見上げたけど、どうもそれじゃなかったらしい。レンレンは涙目でオレの手のひらの上から飛び降りて、植木鉢をぺしぺし叩いた。
「植えっ、てっ」
「ああ……」

 そういや、植え替えの途中だったっけ。レンレン登場の衝撃ですっかり忘れてて、我ながら苦笑する。
 よく見りゃ、せっかくのヒゲ根もちょっと乾きかけで、カワイソーだ。
「ワリー、すぐ植える」
 素直に謝って植木鉢の土を軽く掘り、そっと杉の子の苗木を埋める。状態を本人に直接訊けんのは有難い。
「こんくらいでイイ? 水いるか?」
 こくこくうなずくレンレンに促されるまま、マイじょうろで水やりしてると、後ろから「兄ちゃん……」って呆れたような声がした。
「1人で何喋ってんの? 不気味なんだけど」
 そんな失礼なことをズバッと言って来んのは、1つ違いの弟だ。どうやらレンレンにまだ気付いてねぇようで、優越感が沸き起こる。
「はっ、1人じゃねーし」
 思いっきりドヤりながらレンレンを引っ掴み、弟にじゃーんと見せつける。そしたら弟の更に後ろ、リビングの掃き出し窓の方から「きゃーっ」と盛大な悲鳴と共に、母親がバッと降りて来た。
 目にも止まらねぇ速さで手の中のレンレンが奪われて、えっ、と呆然と佇むしかねぇ。

「可愛い! 会いに来てくれたの?」
 弾んだ声で言いながら、レンレンを頭上に抱え上げてくるくる回り出す母親。レレレンレンレン、レレレンレンレン、と例の歌を口ずさむのも忘れねぇ。
 弟もオレなんかには目もくれず、リビングの方に一緒になって戻っちまった。
「え……会いに来たのって、オレにだよな?」
 ぼそりと呟いても、返事はねぇ。
 オレは1人庭先にしゃがんで、裸んぼ妖精の抜け出した植木鉢に手を触れた。

(続く)

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