[携帯モード] [URL送信]

Season企画小説
手のひらサイズのプレゼント・3
 授業中、机の上に手乗りレンを乗せて、ノートを取りつつ構ってたら教師に怒られた。
「阿部、ペットを学校に連れてくるんじゃない。机にしまいなさい」
 レンはペットじゃねぇ、と一瞬反論しそうになったけど、いや手乗りレンはペットみてーなモンかも知れねぇと思い直した。
 ただ、机にしまうっつーのはいただけねぇ。
 教科書やノートや参考書の類で机ん中はぎっちりだし。いくら手乗りレンが野球ボールサイズだからって、そこにぎゅうぎゅうに押し込めんのは可哀相だろう。
 教師が机にしまえっつーのは、つまり、机の上でちょいちょい構ってんのが悪ぃって意味だよな?
「はい……すんません」
 形だけの謝罪をして、机にぺたんと座り込む手乗りレンを引っ掴む。そっと机ん中にしまう振りをして、その手をくるっと背中に回した。

 背中に回した手のひらの上から、小さな気配が背中に移る。背中にしがみついてろ、って意図が言わなくても伝わったみてーでホッとする。
 後ろの席のヤツが「ぶうっ」と吹いてたけど、手乗りレンの可愛さは反則級だから仕方ねぇ。しかも、よじよじとオレの背中をよじのぼってるっぽい気配するし。そりゃあ可愛くて鼻血も吹きたくなるだろう。
 意識して背中を丸め、レンが登りやすいようにしてやると、やがて手乗りレンのささやかな気配が肩の上に乗るのが分かった。
 学生服のエリ元に、ふわふわと手乗りレンの猫毛が触れる。
 くそ可愛い。
 なんで今、ここに鏡がねーんだろう。
 オレの肩の上にちょこんと座って、ふいー、と息をついてる気配がビンビンすんのに、目で見て確かめられねーのが辛い。
 机の上に乗せてた時より、肩に乗せてる今の方が、手乗りレンが気になって仕方なくて授業にちっとも集中できねぇ。
 これはヤベェなぁと思った。
 手乗りレンが可愛過ぎてヤベェ。

 1時間目の反省により、2時間目は最初から頭の上に乗せてみた。
 背中をよじよじ登る気配がねーからか、そこまで気になんなくて、これはよかった。
 机の上に乗せてた時みてーに、ちょいちょいと構えねぇのは辛いけど、頭の上でこてんと横になってるっぽい気配はするから、レンもきっとそこで満足してんだろう。
 こういう時、三橋みてーな猫毛ならもっと良かったんだろうけど、剛毛なのは親譲りだから仕方ねぇ。
 まあ、多少乱暴にしても抜けたり千切れたりしねーだろうから、安全面としては手乗りレンにとってもいいだろう。
 ただ、頭に乗せたことで他の連中の目に留まりやすくなるとは考えてなかった。
 授業中だって、オレはちゃんと黒板見て教師の話も聞く姿勢になってんのに、周りの席の連中が黒板よりオレの頭上をちらちら見てる。
 時々視線がオレの方に来るのがウゼェ。
 「可愛い……!」って身悶えてるような声も時々聞こえてきて、それもウゼェ。何より、身悶えるほど可愛い手乗りレンの仕草が自分で見られねーのが辛ぇ。
 頭に乗せんのは失敗だったかな、と、さすがに反省しなくもなかった。

 教師までも、授業中にしょっちゅうこっちを見てた。
「阿部、それ……」
「手乗りレンですが、何か」
 教師の質問にキリッと答え、頭上のレンを手で掴む。
 手の中でじたじたとちっこい手足をバタつかせてんのが可愛い。後ろで「ああ……」と残念そうな声が上がんのはウザい。
 手乗りレンはオレの誕生日に現われたオレの手乗りペットなのに。もしかして、後ろの席のヤツが1番レンを長く眺めてんじゃねーだろうか。
「それは、9組の……?」
「まあ、そーっスね」
 オレの返事を聞くなり、教師はオレにさっと両手を差し出したけど、そこに手乗りレンを乗せてやる程オレも人がいい訳じゃなかった。
 代わりに冷たい目線を向けて、手乗りレンを学生服のポケットに入れる。
 教師や周りの連中から残念そうな声が聞こえたけど、知ったことじゃねぇ。
 手乗りレンはポケットの中で、しばらくもぞもぞ動いてたけど、授業を受けてる間にやがて大人しくなった。

 どうやらポケットの中で、寝ちまったらしい。
 休み時間にポケットをさぐると、手乗りレンはくるんと丸まってすぅすぅと可愛く寝息を立てていた。
 エネルギー切れか? おやつにチョコでも与えとくべきだったか?
 こんなちっこい体じゃ、そりゃ燃費も悪ぃよな。朝メシはかなり食ってたけど、昼も多めに食わした方がいいのかも。
 手のひらの上でくるんと丸まって眠ってる、手乗りレンのふわふわの頭を人差し指で撫でつける。
 オレの机の周りには、手乗りレンを見ようとしてかすげー人が集まってたけど、みんなレンに釘付けだ。
 ウゼェけど、手乗りレンが可愛いのは事実だから、まぁ仕方ねぇ。
「ふっ」
 手乗りレンを撫でながら笑うと、「キモッ」って水谷の声が聞こえてきたけど、くだらねぇ評価はどうでもいい。
 手のひらの上の小さな温もりを感じつつ、幸せだなぁと思った。

 昼休みに教室で弁当を食おうとしてると、野球部の面々を引き連れた田島らがやって来て、強引に食堂に連れ出された。
 7組からはまた置いてけ掘りみてーな怨嗟の声が響いたけど、文句はオレじゃなくて田島らに言って欲しい。
 食堂でも、当たり前だけど手乗りレンはモテモテだった。
 みんな自分の昼飯からちょっとずつ手乗りレンに食い物を貢ぎ、嬉しそうにしてるレンを眺めてる。
 高1男子が揃ってデロデロな顔並べてんのは、はたから見たらきっと不気味な光景だろう。
「三橋、このミートボールはオレが作った」
 ドヤ顔で自作のおかずを貢ぐ巣山。
「レン、プリン食う?」
 早々におやつに誘う田島。
 手乗りレンはオレのだけど、みんなに構われ嬉しそうにしてる様子も、罪深いくらい可愛かった。

(続く)

[*前へ][次へ#]

13/28ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!