Season企画小説 手のひらサイズのプレゼント・2 「置いてけー、置いてけー」って怪談みてーに喚く両親を振り切って、手乗りレンを連れて家を出た。 置いてけ掘りっつーと川越にもあるらしいけど、そもそも三橋は魚じゃねーし、手乗りレンはオレのだ。どうでもいいけど今日は誕生日のハズなのに、家族からまだ「おめでとう」も言われてねぇ。 「お前だって、よく知らねーよその親と留守番するより、オレと一緒に学校行った方がいーよな?」 手のひらに乗せてニカッと笑いながら言うと、手乗りレンはビクッと怯えてたけど、いやいやと首を振ったりはしてなかったし、了承ととっていいだろう。 つっても、手のひらに乗せっぱなしで自転車に乗る訳にもいかねぇ。マフラーの間に突っ込んで、学校に向かうことにした。 マフラーの中で手乗りレンはもぞもぞ動いて可愛かった。力いっぱい自転車を漕ぎ出すと、マフラーにちっこい手でぎゅうっとしがみついてて、それもまた可愛かった。 「ああ、手乗りレンいいなぁ」 自転車をぎゅんぎゅん漕ぎながら、ニヤニヤとほくそ笑む。夢かな、って思いはやっぱあったけど、マフラー越しのささやかな温もりが嬉しくて、夢でも何でもいいやと思った。 学校に着いてから、まず9組の教室に向かった。 「レンは?」 いねーだろうなと思いつつ田島らに訊くと、「まだだぜ」って答えが返る。 「だろーな。ここにいるし」 ニヤッと笑いつつ手乗りレンを差し出すと、「うおおー」って歓声が上がった。田島と泉と浜田、3人の突然の大声に、レンがオレの手のひらの上でびょんっと跳ねる。 それがまた小動物っぽくて可愛い。ビビって跳ねた後はくるんと丸まって震えてて、それも可愛い。 「何コレ? 可愛い」 「手乗りレン」 わあわあと騒ぐ3人にドヤ顔で答え、丸まって怯えるレンを両手でくるむ。そのサイズはやっぱ硬球サイズで、でもふわふわしてて、ほんのり温かくて可愛かった。 そのレンの可愛さは、田島らにも当然分かるらしい。 「すげー、背番号1番じゃん」 「さすがレン」 「ミハシはエースだもんな〜」 オレの手のひらを覗き込み、3人が口々にレンを誉める。 誉められてることが分かるんだろうか、怯えて丸まってたレンはそろそろと顔を上げ、オレの指に縋りつつも、3人の顔を上目遣いで覗き上げた。 すげー可愛い。 なんだコレ、可愛い。 上目遣いも可愛いし、恐る恐るの様子も可愛いし、オレの指にしがみついてんのも可愛い。ちっこい手も可愛い。叫ぶほど可愛い。 そう思ったのはオレだけじゃねぇようで、田島らから再び「うおおー」と雄叫びが上がる。 それにビビって、レンがまたびょんっと飛び上がんのも眼福だった。 「っつー訳で、レンは今日は7組だから」 そう言ってその場を去ろうとすると、「待てよ」と3人から引き留められた。 置いてけー置いてけーとのコールがかかるけど、そんなプレッシャーに負ける程オレもヤワじゃねぇ。 「レンは9組のだろ」 「そーだよ、授業受けねーと」 口々にわいわい言われたけど、「うるせー」って躱して9組を出る。 授業って言われると確かに気にはなるけど、こんなサイズじゃノートも取れねーし、教科書だってめくれねぇ。今日は諦めて、オレと一緒にぬくぬくのんびり過ごしてりゃいい。 「お前も1人でつまんねー授業に出るより、オレんとこでのんびり過ごす方がいーよな?」 手のひらを覗き込んでニカッと笑いかけてやると、レンはやっぱビクッとしてたけど、いやいやと首を振ったりはしなかった。 はくはくと口を開け閉めしてるけど、結局何も言わねーまま上目遣いで黙り込む手乗りレン。 「何か言いたいことあんの? 言わねーとワカンネーぞ?」 にやにやと笑いつつ、指先で手乗りレンの頬をつつく。ぷくぷくしてそうな頬は、つつくとやっぱりぷくぷくで可愛い。やーん、と言いたげにオレの指を避けようとして、ちっとも避けれてねーのが可愛い。 改めて7組の教室に戻り、手乗りレンをオレの机の上に乗せる。 「阿部、おは……」 話しかけて来た花井が息を呑み、手乗りレンを見て絶句した。 「おま、これ……」 「手乗りレン。可愛いだろ」 ドヤ顔で自慢して、レンを再び手のひらに乗せる。レンは人見知りするようにオレの手のひらん中に隠れ、そうっと花井を覗き上げた。 「なんで三橋がこんな!?」 目を見開いたまま、頭を抱える花井に「さーな」と答える。 オレに訊かれたって知らねー。朝起きたら枕元にいたんだし、今日はオレの誕生日だし、こういうの欲しかったし、きっとそういうことだろう。 「何が『そういうこと』なんだよ!?」 ぐわー、と頭を抱えて叫ぶ花井は、前から知ってたけど苦労性だ。きっとハゲる。いや、もうハゲてるか。 「可愛けりゃいーんだよ。なぁレン」 人差し指でちっこい頭をふわふわ撫でると、レンは気持ちよさそうにデカい目を細めて、オレに慣れた様子を見せてくれた。 花井は「なんでだ」「どーすんだ」と無粋なことを騒いでたけど、水谷は9組の3人と似たり寄ったりの反応だった。 「うわー、何コレ可愛い!」 「手乗りレン、いいだろ」 オレの自慢に、「いい、すごくイイ」と満面の笑みで水谷が同意する。 篠岡やチアの女子もやっぱ可愛いモノには弱ぇみてーで、きゃあきゃあ歓声を上げながら、「可愛い」「三橋君、可愛い」ってトロけた笑みで誉めまくってた。 「ちょっと触らせて」 デレデレの顔して手を差し出されたけど、それには「ダメだ」ってキッパリ断る。手乗りレンはオレのだし、オレの手のひらの中だけで可愛がられてりゃいい。 「食う気だろ」 「食べないよ!」 女どもは否定したけど、その目は肉食獣みてーにギラついてて、とても信用できねぇ。 レンはオレが守らねーと。そんな決意を新たに、授業に臨むことになった。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |