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Season企画小説
手のひらサイズのプレゼント・1 (2019阿部誕・原作沿い高1)
 昼休みに食堂に行くと、野球部の面々が揃ってた。
「阿部、珍しいな」
 みんなに驚いたように言われ、うどんを乗せたトレイを置いて「おー」と答える。注文組と弁当組と、見たところ半々みてーだ。オレはっつーと弁当もありつつのうどん追加だ。
「温かいモン食いたかったんだよ」
 オレの言葉に「寒いもんなー」と納得したようにうなずくみんな。
 12月に入って急激に寒くなったような気がする。暖を取るならホットコーヒーでもできなくはねーけど、体の芯から温まるなら、コーヒーよりもうどんがいい。
「そういやもう12月だな」
「部室も凍えるように寒いよね」
 誰かの言葉に、「寒い寒い」と誰かが応える。10人全員揃ってる訳じゃねーけど、いつもの面々の会話はいつも通りで賑やかだ。
 ずずっとうどんをすすりながら聞くともなしに聞いてると、クリスマスの話になって、それからオレの誕生日の話になった。

 オレの誕生日なんか、みんな覚えてねーと思ってたから話題に上がんのが意外だった。田島みてーに「今日オレの誕生日」とか自己申告するならともかく、普通は他人の誕生日なんかそんな気にしてねーだろう。
 といっても、誕生日に何か祝ってくれるっつー話でもねぇ。
「誕生日にプレゼント貰うとしたら、何が欲しい?」
「くれんの?」
 水谷の質問に質問で答えると、「まさか!」って強く否定されてコノヤロウって思う。
 どうやら「もし貰えたら」ってifの話らしーけど、そんな仮定なんか意味がねぇ。それに、欲しいモノっつってもすぐには思い浮かばねぇ。
「そーだな、チェストプレスかな」
 ふと頭に浮かんだトレーニングマシンの名前を言うと、「高ぇよ」って笑われた。
「そんなん学校の備品にあるだろ」
 花井の的確なツッコミに、みんなが苦笑しながらこくりとうなずく。
 まあ、学校のを自由に使えりゃ文句はねーけど、冬場はどうしても混み合うし、わざわざ順番待ちするほどマシンに頼るって訳でもねぇ。

「マシン以外で」
 と、そう言われると、やっぱ自分専用のパソコンかタブレット辺りだろうか。
 それか……そーだな、ペットでもいい。
「手乗りのレンでもいーな」
 思いつくまま口にすると、斜め向かいでコンソメスープを飲んでた三橋が、ごふっとむせた。
「て、て、て、て、手乗り?」
 汚れた口元をぬぐいながら、思いっ切り動揺する三橋がおかしい。同い年の投手だと思うと頼りねーけど、愛玩動物としては悪くねぇ。
「そう。こんくらいの、ペットに」
 両手使って大きさを説明しながら、手乗りレンを想像してにんまりする。
「ペット……」
 呆然と呟く三橋、「何言ってんだ」とツッコむ花井、「手乗りペットぉぉ」とはしゃぐ田島……。いつもの面々の話はいつも通り賑やかで、バカバカしいifの話も、たまには悪くねーなと思った。


 そんなやり取りがあったな、と思い出したのは、12月11日、誕生日の朝だった。
 目が覚めると枕元に小さな手乗りサイズの三橋がいて、丸まってすぅすぅと小さな寝息を立てていた。
 よく見ると西浦のユニフォームを着てる。背番号は勿論1番。頭でっかちで体は小さい。2等身? いや2.1等身くらいはあるだろうか?
 首根っこを掴まえてびろんとつまみ上げると、手乗りサイズの三橋は「ふえ?」と目を覚まして、それからじたじたと短い手足を動かした。
 すげー可愛い。
「レン……?」
 手のひらに乗せて話しかけると、手乗りレンはびくっと全身を跳ねさせて、くるっと丸まって震え出す。
 ああ、このポーズたまに見るな、と思った。普通サイズの三橋がやると「丸まってんじゃねぇ」って言いたくなるけど、手乗りサイズでやられるとひたすら可愛い。
 両手ですっぽり包んでやると、ちょうど硬球サイズぐれーで、そんなとこもボール大好きな三橋らしい。

 それにしても、なんで手乗りレンがオレんちにいるんだろう? 誕生日だからか? いや、夢か?
 これは夢だって自覚があんのは明晰夢っつーんだったっけ? まあ、そういうスピリチュアル的なモンには興味がねーしどうでもいいけど、取り敢えず朝だし、さっさと起きた方がいいだろう。
「行くぞ」
 手乗りレンを手のひらに乗せたまま、自室を出て階段を下り、リビングダイニングにどすどす向かう。
「おはよ」
 ダイニングに顔を出し、テーブルの上に手乗りレンを乗せると――どうやら、見えるのはオレだけじゃなかったみてーだ。
「可愛い!!」
 と、家族みんなが言い出して、ちっこい三橋が再び飛び跳ね、ボールのように丸まった。

「えっ、これ、何?」
 弟の問いに「手乗りレン」と適当に答え、そのまま放置してトイレに向かう。
 用を足して戻ると、手乗りレンは母親の手のひらに乗せられてて、「可愛い可愛い」言われてた。
 誰もその不自然さにツッコまねーのは、やっぱこれが夢だからだろうか。
 なら、普通にポケットにでも入れて、学校に連れてっても大丈夫か。
「三橋君、何か食べる?」
「おいさんの卵焼きをやろう」
 デレっとした顔でちやほやと手乗りレンを構う両親をよそに、「いただきます」と手を合わせてメシを食う。
 普通サイズの三橋は小柄な割に大食いだけど、手乗りサイズの三橋も、やっぱりその辺は同じみてーだ。
 卵焼き、ウィンナー、プチトマト、おにぎり……両親や弟から食い物を貢がれて、キョドキョドしながら食ってる様子が、小動物っぽくて可愛かった。

(続く)

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