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Season企画小説
鬼は外、福は内 (鬼阿部・2019節分・オジサン注意)
三橋廉の家に渋い雰囲気のおやじな赤い鬼がやってきました。鬼『悪い事をしにきました』
https://shindanmaker.com/184464 より。




 ああ、今日節分だったんだ。そう気付いたのは夕飯後にTVを見てた時で、オレは「うお……」と頭を抱えた。
 節分っていったら、オレにとっては豆まきよりも恵方巻き。近所のスーパーの恵方巻きバイキングを楽しみにしてたのに、うっかりカレーを食べちゃってガッカリだ。
 しかもスーパーはもう閉まってる時間で、どうあがいても食べれそうにない。
 最近はコンビニにも恵方巻き売ってるけど、恵方巻きなら何でもいい訳じゃなかった。いっぱい種類のある中から、あれこれ選ぶのが楽しいんだ。
 普通の五目巻きもいいけど、サラダ巻きもいい。マグロもいいけど、エビフライもいい。トンカツ巻きもいい。
 食べたいなぁ、と思ったけど、お腹の中はもうカレーでいっぱいだし。スーパーも閉まってるから、諦めるしかない。明日はもう売ってないだろうし、来年までお預けかも。
 はああ、とため息をついて、先に買ってあった節分豆の袋を開ける。豆を買っておくの、忘れなくて良かった。
 節分豆にも色々あるけど、オレが買うのは普通の煎り大豆だ。三角パックで個別包装してるのもあるけど、普通にざらっといっぱい入ってる豆がいい。
 歳の数だけ食べるとか言うけど、残してても仕方ないから、数えもしないでぽりぽり食べる。
 豆まきは、ひとり暮らしだと掃除が大変だから、する気にはなれなかった。

 TVを見ながら豆をぽりぽり食べてると、ベランダの方からコツンコツンと音がした。
 何だろう? 物干し竿にかけっぱなしのハンガーかな? そう思ってカーテンを開けたけど、もう夜だし、部屋の明かりのせいでベランダの様子がよく分かんない。
 風強いのかな?
 放っとけばいいかなとも思うけど、窓から離れてラグの上に座ると、またすぐにコツンコツンと音が始まって、気になって仕方ない。
 夜中ずっとコレだと、眠れないかも。
「う……むぅ……」
 面倒臭さに唸りつつ、再び立ち上がってカーテンを開け、サッシ窓の鍵を開ける。
 キキィ。軋むような音を立てつつ、ベランダの窓を開くと――さっきまで何もなかったハズの窓の向こうに、大きな人影が見えてギョッとした。

「うひっ!」
 悲鳴を上げて手を放すと、目の前のサッシ窓がガラッと無遠慮に開けられる。
 それをくぐって入って来たのは、窓よりも背の高い、大柄なオジサン。着崩した赤いトラ柄のシャツに鋭い牙、何より頭に2本の角が生えてて、一目で鬼だって分かってギョッとした。
 キリッと濃い眉に、ちょっと垂れ目がちの二重、無精ヒゲ。渋い系の格好いいイケオジだけど、そういうの関係ない。
「悪ぃコトしに来たぜ」
 ドヤ顔でニヤッと笑われ、その唇から真っ白な牙が見えて、ヒィィッって悲鳴が漏れる。
 悪いコトって何、なんて訊く余裕もない。鬼のオジサンはどうっと部屋の中に入り、ガラッとサッシ窓を閉めた。
 慌てて四つ這いになり、その鬼から距離を取るけど、1歩踏み込まれ一瞬で距離を詰められる。
「さ、悪ぃコトしよーか」
 ニヤッと笑いながら、鬼がどうっとオレの前にしゃがみ込む。
「し、し、し、しない」
 ぶんぶん首を振ると、「じゃあ、イイコトならいーよな」って言われた。

 イイコトって何? っていうか、悪いコトって何? なんで鬼が入って来てんの? 節分だから? でも、節分って鬼を追い出すんだよね?
 ぶんぶん首を振り続けるオレの前で、「さあ」とか言いながら、オジサン鬼が赤いトラ柄のシャツを脱ぐ。
 何が「さあ」なのか、意味が分かんない。
 シャツの下にはオジサン、何も着てなくて、ムキムキの筋肉がムキムキモコモコで、意味が分かんないけどすごく怖い。
「やだあっ!」
 無我夢中でさっき食べてた節分豆の袋を引っ掴み、豆を握って鬼にぶつける。ピシィッ。
「出、てってっ!」
「痛っ!」
 オレの投げた豆が当たると、オジサン鬼がちょっと怯んだ。
 さすが豆。すごい豆。
 豆の威力に勇気を貰い、更にピシィッと豆をぶつける。

「おっ、鬼は、外!」
「痛ぇって、ちょっ……」
 オレの投げる豆を受け、鬼が両手で顔を庇う。ホントに痛そうだけど、相手は鬼だし、半裸のムキムキのオジサンだし、容赦はしない。
「鬼はっ、外っ!」
「うわ、やめろって」
 更に豆を投げつけると、鬼は更に怯んで――みるみるうちに体が縮み、ムキムキの筋肉が目減りした。
 もしかして、このまま退治できる? オレ、スゴイ? 豆、スゴイ!
 調子に乗って豆をぶつけ、鬼が悲鳴を上げるのを見る。
「鬼は、外!」
「ちょっ、コラッ」
 その悲鳴も、いつの間にかさっきの渋い声じゃなくなって、若々しい青年の声になった。
 まだ角は見えてるし、ムキムキ度は下がっても筋肉質なのは変わらないけど、もう「渋い」なんて言葉は似合わない。どっちかって言うと爽やかなイケメンに変わってる。

 でも、オジサンでもお兄さんでもイケメンでも鬼は鬼だし。容赦する余裕、ない。
「もう、帰って! 鬼は外!」
 オレは大声で叫びながら、トドメとばかりに豆を投げようと、袋の中に手を突っ込んだ。けど指先に豆が触れなくて、あれっ、と思う。
 ハッとして手元を見ると、節分豆のビニル袋は空っぽになってて、もうわずかな豆の皮のカケラと、小さな乾燥剤しか入ってなくてギョッとした。
「ま、豆……」
 もっと買っておけばよかったって、後悔してももう遅い。
 オレが「ひぃっ」って息を呑むのと、鬼が「ふ、ふ、ふ……」って不気味に笑い始めるのが、ほぼ同時だった。
「か、か、帰っ、て」
 震える声で空になった豆の袋をぶつけたけど、全く意味がないみたい。
「ようやくオレのターンだな」
 若々しいイケメン鬼が、ニヤッと笑いながらオレの目の前で立ち上がる。

「じゃあ、福は内、しよーか」
 福は内、って。一体何のことか、意味が分かんない。イイコトも悪いコトも、福は内もしたくない。
 イケメン鬼の赤黒く猛った金棒を見せられ、ぶんぶんと首を振る。けど、鬼を追い払う豆は、もうなくて。
 金棒じゃなくて恵方巻きがよかったなって、ちょっと思った。

   (終)

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