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Season企画小説
残念なお客様 (2018いいお尻の日・バニーボーイ三橋)
※この話は「魅惑の黒バニー」の続編になります。




 バイト先のバニーズクラブで、最近、オレをいつも指名してくれるお客様ができた。
 以前貰った名刺によると、阿部隆也さんっていう、有名企業の社員さん、だ。ゆるく立たせた黒髪に、太くて凛々しい眉、ちょっと垂れ目の格好いい人。
 バニーズクラブは文字通り、バニーガールやバニーボーイが料理や飲み物を運んだり、席に座って接待したりする店だ。
 オレたちバニーボーイの衣装は割と手抜きっぽいと思うけど、女の子の衣装は逆に手が込んでて、燕尾服っぽくて格好いい。ボーイみたいに透け透けじゃないのが、こだわりなんだって。
 ボーイとガールに共通するのは、お尻に着けた白い尻尾と、頭に着けた黒い耳。それから首元の蝶ネクタイと、網タイツ。
 女の子の衣装の方が露出こそ低いけど、やっぱ正統派だし可愛いと思う。
 女の子自身も可愛い子多くて、やっぱ接待の指名は圧倒的に女子率が高い。オレだってお客の立場なら、バニーボーイよりバニーガールを選ぶと思う。
 けど阿部さんはなんでか、居並ぶ可愛いバニーガールに目もくれず、オレばっか指名してくれる。
 指名貰えると指名料分のボーナスも出るし、そりゃ勿論嬉しいんだけど、なんでオレばっかなのか、すごく不思議。

 不思議に思って前に訊いたら、「だってお前可愛いじゃん」って。
 男に可愛いは誉め言葉じゃない気がするけど、「可愛くない」って言われるよりはよっぽどいい。
 お尻とか胸とかじろじろ見られるのに、初めの頃はビクビクしたけど、最近はだいぶ慣れてきた。
「レン君、ご指名です」
 バニー服を着てないスタッフ、いわゆる「黒服」に声を掛けられて、指名されたテーブルに向かう。
 そこにはいつものようにスーツをビシッと着こなした阿部さん。
「こ、こんばん、は」
 ぺこっと頭を下げ、「失礼、しま、す」ってソファ席の隣に座ると、格好いい顔で「よお」ってニヤッと笑われた。
 エリートだし、格好いいし、スタイルよさそうだし、モテそうなのに……毎週のようにここに入り浸ってる阿部さん。カノジョさんとか怒らないのかって前に訊いたら、「んなのいねーよ」って。
 勿体ないなぁって思うけど、オレの胸とか腰とかじろじろ見回すの見てると、無理もないのかなぁとも思う。

「水割り作って」
「は、い」
 阿部さんのオーダーに従い、テーブルに用意されたグラスを上向きに引っくり返す。
 氷を入れ、ウィスキーをガシッと掴んでキャップを開けようとしたところで、くいっとお尻に違和感が届いた。
「ふわっ」
 反射的に悲鳴を上げ、パッと後ろを振り返る。
 オレの予想通り、お尻についた白い尻尾を阿部さんが弄んでて、もうっ、ってなった。
「お、お触りは、禁止、ですっ」
「触ってねーじゃん」
 ニヤッと笑う様子は、ホントに確信犯で、タチ悪い。
「お前の尻、いいなぁ」
 って、尻尾を触りながら言われると、ぞくぞくって背中に痺れが走る。

「め、目で触って、ますっ」
 頑張って言い返しつつ、カーッと赤面してくのが自分でも恥ずかしい。
「なんだ、それ」
 はははっ、って爽やかに笑う阿部さんは、それだけ見るとやっぱりイケメンだ。
「じゃあ、仕事外なら触っていーだろ?」
「し、仕事外、って」
 つまりバイト中じゃない、ってこと? そりゃ別に禁止されてる訳じゃない、けど、じろじろ見られながらだと「はい」とはちょっと言いにくい。
 それに阿部さん、バニーが好きなんじゃない、の、かな?
「お、お、オレ、ぷ、プライベート、では、尻尾ありま、せん、から」
 ずりっと腰を動かし、尻尾を阿部さんから遠ざけながら大真面目に言うと、なんでかぶはっと吹き出された。

「尻尾じゃなくて、お前の尻を撫でてーんだけど」
 って。それ、余計に「はい」って言いにくい。
「お、お、お触りは、禁止っ、ですっ」
「だから、プライベートで」
 ニヤッと笑いながら言い募られ、オレはぶんぶん首を振った。首を振る度、頭に着けたウサギの耳もぶんぶん揺れて、お断りなイメージ、倍増だと思う。
 けど残念ながら、阿部さんは諦める気ないみたい。
 っていうか、多分、オレが必死で断るのも楽しんでるっぽい。
「お前……今日は『いいお尻の日』だぞ?」
 って。諭すように言われたけど、意味わかんないし、お尻触るのはNG、だ。
 いいお尻の日、って、初めて聞いたけど、ホントにそんな日あるの、かな?

 じわじわ赤面しながら、阿部さんの大きな手を警戒して、びくびくと肩を揺らす。
 触られたら、どうにかなっちゃいそうで怖い。
 可愛い子がいっぱいいるバニーガールより、オレみたいな貧相なバニーボーイを毎回指名してくれる阿部さん。
 お尻お尻しつこいし、目つきがすごくエロいのに、やっぱりその顔はイケメンで――。

「写真撮るくらいなら、いいか?」
 オレのお尻をじろじろ見ながら、スーツの内ポケットからケータイを取り出す彼の姿は、格好いいだけに残念だった。

   (終)

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