Season企画小説
魅惑の黒バニー (2018バニーの日・会社員×バニーボーイ)
その兎に会ったのは、会社の同僚に付き合いで連れて行かれた、バニーがいるっつー店だった。
バニーガールの格好のウェイトレスなんて、メイド喫茶同様、イマドキそう珍しくもねーだろう。
けど、「じゃあ行ったことがあんのか?」っつーと確かに行った経験はなくて、その誘いを断れなかった。
そもそもバニーガールってのは、プレイボーイとかいうアメリカの雑誌に連動した、会員制ナイトクラブのウェイトレスの制服らしい。
黒兎のバニーガールしか知らなかったけど、それは日本の流行がそうなだけで、本来はウェイトレスの個性によって、いろんな色のバニーがいたみてーだ。
白人には原色バニーが似合うとか、有色人種にはパステル調のバニーが似合うとか。そんで黒バニーは、ベテラン勢だとか。
そういうウンチクを語られると、成程バニーっつーのも奥が深いんだなと思った。
奥が深いんだなと思ったが――まさか、男のバニーもいるとは思わなかった。
黒のハイレグ燕尾服みてーなのを着た女バニーに対し、男バニーは黒パンツのみだ。上半身はまるっきり裸って訳じゃなくて、網タイツみてーな感じの黒メッシュで胸と腹を覆ってる。
黒い網タイツに黒の編み上げブーツ、白いしっぽのついた黒パンツに、黒のメッシュ生地、首元には黒の蝶ネクタイ。両手首に白いカフス。そんで、黒い耳。
歩くたびにピンと立った黒耳がひょこひょこ揺れて、まあ可愛い。
丸見えの背中が色っぽい。
女より確実に露出は高くて、しかも妙にセクシーで……っつーか妙にエロくて、ついつい視線を奪われた。
結局、同僚たちのシュミもあって、席について貰ったのは普通の女バニーだったけど、オレはどうにも男バニーの1人が気になって仕方なかった。
腰に着けた名札によると、そいつの名前は「レン」らしい。
レンは何人かいた男バニーの中でも1番小柄で細身で、黒メッシュがよく似合ってた。
なんであんな映えて見えんだろうと思ったけど、多分すげー色白だからだろう。
色白の体に黒メッシュって、ヤバいくらい背徳的だ。メッシュ越しに乳首が透けて見えてんのもエロい。裸の背中の曲線もエロい。
「し、失礼し、ます」
男にしては少し高めの声でそう言って、料理を運んで来たり、空の皿を下げたりすんだけど、じーっと見てると照れ臭そうに身をよじる様子も、何か「兎」って感じした。
「阿部ってそっち系?」
同僚には驚かれたけど、オレだって別に、女より男がイイとかそんなこと今まで思ってなかった。男なら誰だって、大概は女がイイに決まってる。
ただ、あのバニーに関しては別だ。
男だとか女だとか関係ねぇ。あの「レン」ってバニーだけが気にかかる。
黒パンツの尻に付いた白いもこもこの尻尾を、ぷりぷりぷりぷりさせて歩く様子とか。メッシュ生地からビミョーに透けててエロ過ぎる乳首とか。キレイな白い背中とか。黒耳の目立つ薄茶色の髪とか……。
気になる理由を上げりゃ、キリがねぇ。
「気になんのは『レン』ってバニーだけだから」
これはもう、一目惚れって言った方が近いのかも知んなかった。
その「レン」を席に呼ぶことができたのは、後日、1人でその店に行った時だ。
チャージ料3000円と、席に座るだけで料金取られる店だけど、「レン」に会うためには仕方ねぇ。
「バニーのご指名は、ございますか?」
席に着くなり女バニーにそう訊かれ、迷わず「『レン』を」と即答する。
やがて「失礼、しま、す」ってテーブルに寄って来た「レン」は、相変わらず色白で気弱げで細身で小柄で色っぽくて……そんで、相変わらずエロかった。
オレの隣でソファに浅く腰掛け、内股でちょこんと座ってんのが可愛い。
間近で見た黒メッシュ越しの乳首が、つんと勃ってんのがエロい。
料理を運んで来たり、皿を下げたりしてた時は、もうちょっと堂々としてたように思ったけど、客の隣に座るのには慣れてねーのか、緊張に震えてるっぽいのも可愛かった。
初々しい。可愛い。庇護欲にそそられるのと同時に、加虐欲にもそそられる。守りてぇのに泣かせてぇって、矛盾するようだけど、今まさにそれだ。
「阿部、お触り禁止だぞ」
「イエスバニーたん、ノータッチだ」
同僚らにはあれこれクギを刺されたけど、んなことはわざわざ言われなくても分かってるっつの。
じろじろと「レン」の体を眺め回し、水割りを作ってくれるよう要求する。
「か、しこまり、まし、た」
おどおどと答え、ちらちらこっちを伺いながら、ぎこちねぇ手つきでグラスに氷を入れるレン。
ウィスキーボトルをガシッと掴む手は、案外大きくて男らしいけど、そのアンバランスさがまたエロくてイイ。
「なあ、お触り禁止だって?」
尻についてる白い尻尾を撫でながら訊くと、「き、禁止っ、ですっ」って上擦った声で訴えられた。
「尻尾も?」
「しっ……っ」
オレの問いに、声を詰まらせる様子が可愛い。
「耳は?」
「耳、もっ!」
慌てたように、頭に着けた黒耳を庇う様子も可愛い。けど、生憎その兎耳には興味なかった。
いや、目の前でぷるぷる震えてるコイツはどう見ても兎だったけど、白い尻尾も黒い耳も、どっちも偽物だって分かってるから――。
「お前の耳がそっちなら、こっちは触っていーんだよな?」
ニヤッと笑いながら、髪から見え隠れしてる丸い耳をぐいと引くと、黒兎は今度は口元を押さえ、「ひゃあん」と色っぽい鳴き声を上げた。
(終)
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