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Season企画小説
ラブフルフィルム・後編
 現像した写真を入れるんだろう、小さなアルバムを1冊貰って店を出た。
 現像代と写真代、CD代合わせて2000円越えはかなり痛かったけど、そんな出費さえ忘れるくらいドキドキした。
 自転車に荷物を置くのももどかしく、渡された封筒から写真を取り出す。
 現像された27枚の写真は、一番上が笑顔の阿部、2番目が笑顔の三橋、3枚目と4枚目は仲良さそうな阿部と三橋のツーショット。5枚目は赤い鳥居から見た神社。そして6枚目は……。
「あっ」
 ドキッとして、ビクッと手が震えた。
 神社が見えてた時点で予想はしてたけど、やっぱ、それでも衝撃は大きい。
 華やかな振り袖着た篠岡の、笑顔だ。笑顔でこっちに手を振ってる。頬が赤いのはなんでだろう? 照れてる? 笑ってる?
 篠岡、篠岡、篠岡、篠岡……。晴れ着姿の篠岡ばっかが、色んな表情で何枚も続いた。
 カシャッ、とさっき聞かされたオモチャみたいなシャッター音を思い出す。
 きっと撮られた篠岡も、現実味が薄かったんじゃないのかな? だってホント、オモチャみたいだもんね。

 3人で写ってる写真もあるし、篠岡が撮ったのか、阿部と三橋が並んでる写真もある。
 3人で撮ったり撮られたりしたんだろう、オモチャみたいなカメラで。たまに斜めになってんのもあって、それすら妙に味がある。
 可愛いなぁと思うと同時に、モヤッとした。
 なんでこんな、仲良さそうなんだろう。なんでこんな、楽しそうなんだろう? なんでここにオレがいないの? 考えても仕方ないけど、モヤッとする。悔しい。
 元旦に貰った年賀メールより悔しい。オレだって呼んでよね、と思う。お前らばっかズルい。
 けど、オレに嫉妬する資格なんかなくて――。
『ヘタレ』
 阿部に言われた言葉を思い出し、ずーんと胸が重くなった。

 ヘタレじゃダメなのか?
 いや、オレだって、クソレとかコメとかヘタレとか、そんな妙なあだ名で呼ばれたい訳じゃないけどさ。
 オレ、どうするべき? 仲良さそうに幸せそうに2人でいるアイツ等と自分とを考える。
 阿部と三橋が何を思ってて、どういう関係でいんのか、実のところハッキリとは知らない。けど、ああやって笑い合いながら側にいるの見ると、羨ましいなって思わなくもない。
 きっと色々考えて、互いに勇気を出し合って、今に至るんじゃないかと思う。
 ……で、オレにも勇気を出せって?
 どうやって?
 写真を渡せば喜ぶって、三橋にも言われたのはついさっきだ。オレが撮った訳じゃないのに、オレが渡してどうすんの?
 ああ、でも、これを阿部や三橋が彼女に渡して、仲良さそうに笑い合うんじゃないかって思うとそれもイヤだし、ホント、どうすりゃいいんだろう?

 ため息をつきながら、写真をめくる。
 篠岡の笑顔、阿部と三橋、何枚も何枚も見せられた元旦の写真の後――最後の2枚は、オレの写真、で。
 不意打ちで撮られたオレは、どっちもぽかんと間抜け面晒して、しかも片方は目を閉じてた。
 デジカメなら――スマホでも――きっと、「撮り直し、もう1枚」ってなっただろう。明らかな失敗。失敗なのにやり直しできないのは、告白に似てない?
「そんなの怖いよねぇ……」
 ぼそっと呟いて、自分の写真をぱらっとめくる。そしたら一番上には、また最初に見た阿部の笑顔が現れて――。

『ヘタレ返上しろ』
 ヤツから投げつけられた無責任な言葉が、頭の中でぐわんと鳴った。

 篠岡に電話をすると、明るい声で『おめでとう』って言われた。
「う、うん。明けましておめでとう。今年もよろしくー」
 緩い口調で言って、それから一瞬沈黙する。
 いつもは言いたいこと、すらすら口に出る方なのに、ノドがカラカラで、どう切り出せばいいのか分かんなかった。
『どうしたの?』
 明るい声で心配されて、じわっと胸の奥が熱くなる。
「今から会えない?」
 勇気を出してそう言うと、篠岡は『えー?』と緩い口調でためらった。
 引かれた、と本能で悟って、ドキッとする。
「あのさ、さっき阿部と三橋に学校呼び出されて、誕プレにってフィルムカメラを貰ったんだけど、さ。えっと、で、使い切って現像したら、その中に……」
 自分でも何言ってんだろうって思った。けど、他に説明のしようがない。

 しどろもどろのオレの説明を、途中で遮るようにして、篠岡が『ああー』と声を上げる。
『写真? 見た? 恥ずかしい〜』
 って。恥ずかしいことなんてないのに。
「可愛く撮れてたよ〜」
『ええ〜っ』
 跳ね上がった口調は好感色で、些細なことだけど、よっしゃあって思う。
「ホントホント、よく似合ってた」
 誉めながら、顔に熱がこもるのを感じた。
 もうちょっと、もうちょっと、勇気出せ、オレ。自分を鼓舞して息を詰め、電話の向こうの篠岡を伺う。
 早く見せたいから? 早く渡したいから? 今すぐ会いたいって、さっきの言葉を取り消すつもりはまだなくて、理由を必死に考える。

 拒絶しないで欲しい。笑って欲しい。会って欲しい。
 いつもの篠岡でいて欲しい。
 好きだって、告げる勇気はまだないけど。ネガも全部渡すから、この中から1枚、オレだけに写真をくれないか、って、それくらいは言ってみようと思った。

   (終)

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