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Season企画小説
ギャップW・4
 オレの動揺なんてまるで気付いてねーようで、レンはオレの渡したレジ袋持って、キッチンの方に入ってった。
「座って、て」
 って言われて「おー」と応えたものの、どこ座ればいーんか分かんねぇ。
 ダイニングのイスか? それとも赤いソファ? ためらいつつも奥に近付くと、ソファのデカさがよく分かる。
 オレの知ってるソファベッドって、半分に折ったり3分の1にたたんだりするヤツばっかだったけど、これはホント、まんまベッドだ。病院の診療台くらいデカい。
 それが2つ、取り外しできそうな背もたれ付きで、縦横にくっついて置かれてる。クッションも大小2つで、小さい方はまんま枕だ。
 高さは普通のソファなのに、ゆったり深く座れていい。
 寝心地もよさそうで――。

『寝てみる?』

 一瞬、さっきのレンの言葉が頭ん中によみがえり、ドキッと心臓が跳ね上がる。
 あれは、寝転んでみるか、って意味……だよな?
 ちらっとレンの方に目を向けると、カウンター越しに目が合った。
「阿部君、ご飯、は?」
「あ、ああ、食った」
 無邪気に訊かれて反射的に答えると、にこっと嬉しそうに笑われる。
 テンション高ぇな。普段はもうちょっと落ち着いてそうに見えんのに。ちょっとはオレのコト、意識してんだよな?

 あれこれ考えてる間に、レンがカウンターから出て来た。
「コーヒーでいいです、かー?」
 そんな声と共に、ふわっといい匂いが漂って来る。インスタントじゃなくて、ドリップみてーだ。
 チョコレート色のトレーにコーヒーを乗せて、レンはキレーな足取りですいすいと歩いて来た。
 オレんちの時みてーに、片方が湯のみなんてコトもねぇ。ちゃんと2つとも、皿に乗ってるコーヒーカップだ。
 しかも高級そうだな。白と水色のツートンで、水色地に派手な金の模様が入ってる。
 どっかのブランドか? っつても、多分聞いてもワカンネーと思うけど。

「どう、ぞ」
 ソファの前のガラステーブルにカっプを置いて、レンがオレにコーヒーを勧めた。
 けど、本人はまだ座んねーみてーだ。スッと立ち上がってカウンターの方に戻ってく。
 立ち方も歩き方も、やっぱキレーだな。
 普段から意識してんのか? それとも、もう体に浸み付いてんだろうか?

 ……体に浸み付く、って言い方、ちょっとエロいよな。
 と、そんなこと考えながら、じろじろ後ろ姿を眺めてたら、レンがくるっと振り向いたんで、ドキッとした。
「阿部君、ハタチ過ぎてる、よね?」
 突然の質問に、「ああ、まあ」と答えながら、さり気なく目を逸らす。
 何で突然? ハタチっつったら、酒か煙草か? と、そう思っちまうのは職業病かな?
 年齢確認の必要な商品です、と、聞き慣れた機械音が頭の中に鳴り響く。
 先々月にハタチ越えたばかりのオレは、まだ数回しか酒なんて飲んだことなくて、強いか弱いかもまだ、よく分かってなかった。

 レンは……幾つなんかな?
 下手したら年下にも見えるけど、でも1人で海外飛び回ってるし。慣れってのもあんのかも知んねーけど、やっぱ年上だよな?
 こんなマンション住んでるし。

 高級そうなカップを持って、香りのいいコーヒーをぐびっと飲む。
 じきにレンも戻って来て、デカいソファの少し離れた位置に、そっと座った。
 キレイにラッピングされた包みを2つ持ってて、土産かな、と思ってドキッとする。
「これ、あの……」
 そう言って、リボンのかかった方の包みを、レンがオレに差し出した。
「おみ、やげ」
 って。白かった顔がみるみるうちに赤くなって、スゲー可愛い。エロい。胸元まで染まってんのが無防備に見えてて、マジエロい。
 ソーサーにカップを戻した時、カチャンと音がしたけど、構ってらんねぇ。
 前にもマカロン貰ったし、土産なんか貰うの初めてじゃねーのに。

「チョコ、です」

 真っ赤な顔でそう言われて、心臓が止まるかと思った。

 礼を言いてーのにとっさに言葉が出てくんなくて、「お……」とか「あ……」とか口ごもる。
「さ、さんきゅ」
 ぼそっと言ってから、そういやNY土産だよな、と思う。
 そしたらやっぱ、英語もペラペラなんかな、とか、今の「さんきゅ」って思いっ切り間抜けな発音だろ、とか、でも今更気取ってネイティブっぽくなんか言えねーぞとか……そんな考えが次々に浮かんで、じわっと顔が熱くなる。
 ぎくしゃくと互いに目ェ逸らして、オレら、何やってんだろうな? ダセェ、って思ったけど、もう取り繕いようがねぇ。

 恐る恐る顔を上げると、同じく真っ赤な顔してるレンと目が合った。
「あ、のね」
 と、もう1つ、シンプルな包みの方を見せられる。
「こ、これは、一緒に食べよーと、思って」
 そんな可愛いことを言いながら、レンが包装紙をビリビリに破った。
「アメリカのじゃないんだ、けど、空港で見かけた、から」
 ごにょごにょと言いながら、レンが豪快に取り出したのはビンに入ったチョコレート。透明な洒落たビンに、チョコが2〜30個くらいギッシリと詰まってる。
 英語かなんかで書かれた商品名より先に、真ん中に描かれたイラストの方が目に入って、あっ、と思った。
 半分に割ったチョコの中から、液体っぽいのがとろっと出てる絵。

「酒入りのヤツか」
 そういや、まんま洋酒のビンだ。
「う、うん。日本でも有名なんだ、よっ……」
 レンは嬉しそうに、ビンの封を開けながら説明してくれた。
 照れ隠しなんか、その仕草も豪快だ。ビンを逆さにして、豪快に中身を振り落してる。
 そんなに出してどうすんだ? と一瞬思ったけど、レンの笑顔に気を取られ、結局何も言えなかった。

 酒、チョコ、ソファベッド、の3点セットに、ちょっとだけエロい展開を期待した。

(続く)

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