Season企画小説
ギャップW・2
レンからの連絡は、ホント突然だ。
――14日、暇なら来れませんか?――
そんなメールが、10日に来た。
着信表示にレンの名前見たら、やっぱ嬉しい。じわっと胸が熱くなる。
「来れませんか、って。どこにだよ?」
1人でこそっと呟きながら、ニヤけた顔を片手で覆う。
水谷辺りが横にいたら、不気味そうな目で見られるかも知んねーけど、幸いにも1人だ。
つーか後期の授業も全部終わって、後は試験の結果待ち。
進級はそう心配してねーから、3月末までバイト三昧だ。つっても冬みてーにキツキツには、シフト詰めてなかったけど。
それにしても、相変わらず要領を得ねぇメールだよな。前に住所訊かれた時も、こんな感じだったと思い出す。
そもそも今、どこにいるんだよ? もう帰国したのか?
バイト先ではまだ会ってねぇけど、必ずしもオレのバイト中に来るって訳でもねーらしいし。
まさか「モデルのレン、来ましたか?」とか、店長やパートのおばさんに訊けねーから、よく分かんねぇ。
コンビニの近くに住んでるっぽいけど、どうなんかな?
前に新聞送って貰った時、書かれてた住所に3201号ってあったけど……タワーマンションか?
――来いってどこに?――
短くメールを返すと、すぐに返信が来た。
――うちに。お土産あるから――
「マジ……?」
とっさに呟いて、ケータイを置く。
時間とか正確な場所とか行き方とか、訊くべきことはいっぱいあんのに、それよりどういうつもりなんかって、確かめたくてたまんねぇ。
スケジュール帳を見るまでもなく、その日はバイトで……。翌日は休みだけど、バイト終わってからっつーと、夜の9時過ぎだった。
――バイト終わってからだと遅くなるぞ?――
散々迷ってからそう送ると、すぐに返事が来た。
――いいよ、待ってる――
待ってる、って。あの白い顔で、少し高めの柔らかな声で。囁かれたみたいな気がして、ドキッとした。
お土産くれるっつーのに、手ぶらで行くのもおかしいよな。と、そう気付いたのは、当日になってからだった。
しかもバイト中、レジ打ちの最中だ。
雑誌と総菜パンとコーヒーと一緒に、この間並べた赤いラッピングのチョコを出されて、それが男性客だったからハッとした。
自分用か、それとも誰かへのプレゼントか?
男だってチョコ買うよな。オレだって、ちょっと興味ある。
せいぜい300円程度のチョコだけど、グラム数で見ると板チョコよりかなり割高だし。どんくらい味が違うんだって思うだろ。
まあ、わざわざ食べ比べようかって程、チョコ好きじゃねーしどうでもいーけど。
でも、期待するだけじゃなくて――自分で買ってってもいーよな? つーか、何か手土産代わりに欲しいよな。
そう考えて、パッと思い浮かぶのはレンの好きそうなコンビニスイーツだ。
アイツ、もうどれか買ったかな?
客の途切れんのを待って、ふらっとカウンターの外に出る。
デザートコーナーを覗くと、並んでんのはすっかり見慣れたチョコケーキにチョコムース、チョコプリン。チョコのかかったワッフルに、チョコパイ……。
チョコムースあたり好きそうだけど、もっと日持ちがする方がいいんかな?
現役プロモデルのレンは、1日1個しかスイーツを食わねーって決めてるらしい。だったらやっぱ、焼き菓子系か?
そんなことを考えてる間に客がレジに来ちまったみて―で、「すみませーん」と呼ばれた。
「あっ、はい!」
慌ててカウンターに戻り、「お待たせしました」と声を掛ける。呼んだのはヒゲ面のおっさんで。
「ラーク2つ。と……これ」
と、レジ前に置いてあったチロルチョコのセットを差し出され、顔が緩むのを抑えらんなかった。
チョコ好きなのか? 自分用? それとも子供への土産とか? 想像しながらレジ袋に入れ、会計を済ませる。
「ありがとうございましたー」
ヒゲ面の客を見送ってから、カウンター前をちらっと見る。
ついで買いを促すように、1個売りのまんじゅうやみたらし団子、ミニ羊羹なんかが置いてある横に、さっきのと同じチロルのセットが残り1個。
この間店長が、可愛くリボン付きでラッピングしてたチープなセットも、気付けば残り、コレだけか。
いかにも義理っぽいニオイがすると思ったけど、本命のラッピングチョコより人気あんのかな? 案外こういうの、義理用にって女子が買う訳でもねーのかも。
話のタネにどうかと思ったけど、結局オレが上がるより前に、残り1個も売れちまった。
代わりにって選んだのは、チョコがけのワッフルと季節限定のチョコムース。
チョコムースは店長に訊くと、週末までの限定だっつーから……せっかく好きそうなんだし、食い逃したらカワイソーだし。まあ、安いしな。
最悪、オレが食ってもイイと思う。
「どうしたの? 阿部君、珍しいね?」
店長にはそう驚かれたけど、オレだってたまにはチョコくらい食うし。
「あざっす。お疲れ様っしたー」
商品とお釣りを受け取って、寒空の中、店を出る。
当たり前だけど、外はもう真っ暗で。
ネオンの明かりと車のライトの群れに目を細めながら、オレは斜め上の空を見上げた。
星の見えねぇ都会の夜空に、レンの住んでる高層マンションが、くっきり明るく映えていた。
(続く)
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