Season企画小説
期間限定で別れようと言われたら・3
コンコン、と控えめにドアをノックして、三橋がオレの部屋に入って来た。
オレが無言でじろっと睨むと、冷や汗をかきながらキョドってる。
まあ、一応、罪悪感は持ってるらしい。
「あの女は?」
「う、お、お風呂」
成程、その隙に弁解しに来たって訳だな?
オレは一つ、ため息をついた。冷静に、冷静に。
聞きたいことならいっぱいあるが、質問の仕方を1個間違うと、こいつの回答は、核心からどんどんズレてくっかんな。
「まず、あいつとはどこでどうやって知り合った?」
「え、えと、じーちゃんが、あ、三星のじーちゃんが、知り合いの孫、で、ずっとオレのファン、で、こ、恋人なりたい、て」
あー、やっぱり三星の関係者な訳ね。育ちが良さそうだもんな。
「廉様」だもんな。
けど、それにしちゃ、いやに積極的じゃなかったか? そうっと寄り添ったり、胸に顔寄せたり!
「恋人なりたいっつって言われたら、ほいほいカノジョにしてやんのかよ、お前は?」
「う、条件付き、だし。一週間だけの約束、だ」
一週間。そういや昨日の晩、そんなこと言ってたよな。一週間別れて下さいってな。
別れるって、なんでだよ?
恋人ごっこなだけなら、別れる必要ねーだろ。
それとも何か、お前、もしやあの女に一週間、操を立てるつもりじゃねーだろな!?
「何で一週間?」
きつい声で尋ねたオレに、三橋がしどろもどろに応えた。
「う、と、オレの側で、一週間過ごして、思い出、できたら、来週、アメリカ行くって」
「何でアメリカ?」
「え、と、手術?」
何で疑問系!? 何で首かしげてる!?
手術、でアメリカ? なら、病気か?
まあ、細いし白いし、あんま健康そうにゃ見えなかったけど。でも、ちゃんと自分で歩けてるし、そんな切羽詰ってなくねーか?
「そんな病人、預かって大丈夫なんかよ? 何の病気?」
三橋は、今度は逆向きに、首をかしげた。
「し、心臓の、病気? だんだん、心臓、動かなくなる? って。手術、早い方が、いい? みたい?」
「なんだそりゃ」
なんだ、その曖昧な言い方?
ムカツク。そんな時は、これだ!
オレは三橋のこめかみに拳を当て、久々に思いっきりウメボシをした。
「てめーは、自分のカノジョの病状も把握してねーんかよっ!」
ギリギリ締め付けると、三橋は「ヒギャー」と叫んで、涙目でしゃがみこんだ。
「だ、だ、だって、オレが知ってても仕方ない、よ。岩清水さんはオトナだ、し、自分で分かる、し。オレは夜の間だけ、側で気をつければいい、って」
「はぁ? オトナー?」
そりゃ、同い年くらいだし、20歳越えりゃオトナだけど。あの子にオトナって、似合わなくねーか?
しかし。三橋は言った。
「岩清水さんは、28歳、だよ」
28歳……って。6歳、いや7歳上?
え、待て待て、それは。
「モモカンと一緒、だよっ!」
三橋が、何故か自慢げに言った。
「見えないよ、ねっ」
見えない、っつーレベルじゃねーだろ。
いや、モモカンだって美人だし、まだ若いと思うけどさ。
うわ、ウソ、女って怖ぇ……。
オレが呆然としてる内に、その女が風呂から上がったらしい。
ガチャ、と風呂場の中折れドアを開ける音がした。
「うお」
三橋が慌てて、オレの部屋から出て行った。
オレも、何となくダイニングに向かう。
しばらくして、スパスパとスリッパを引き摺る音と共に、岩清水が現れた。
……浴衣姿で。
いや、浴衣っても、花火大会とかで着るようなんじゃなくて、旅館とかで出そうなやつ。
白地に、紺と赤の朝顔模様。細い帯は、赤だ。
長い髪を頭の上で一つにまとめ、でかいピンで留めてある。
「廉様」
岩清水が、三橋を上目遣いで見つめた。
「ドライヤーをお借りできませんか?」
「う、あ、ドライヤーは、ない、んだ」
三橋が言うと、岩清水は困ったように、目を逸らした。
「まあ。それじゃあ、廉様のお布団、濡らしてしまいますね」
「うお、お布団……」
三橋が顔を赤らめた。
うわ、魔女だ。
オレは何となく、そう思った。
(続く)
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