Season企画小説 期間限定で別れようと言われたら・4 夜の間、具合悪くなったら困るから? 三橋はそう言って、あの女と二人、自分の部屋で寝た。 あの部屋のベッドは、シングルだし、1つしかない。 当然岩清水はベッドで寝るとして……三橋はどうすんのかな? 冷たい床で寝て肩冷やしたりしてねーかな? ソファとか持ち込んで……いや、ソファだって、体、変な風にひねったりとか、心配だよな。 だったら、くそ、あの女と添い寝でもしてくれてた方がマシか? まあ、三橋だしな。 三橋はあんな顔して意外にエロいけど、それは恋人のオレの前だけであって、普段は人畜無害だろう。女に手ぇ出すとかありえねぇだろ。 たとえ魔女が据え膳でも……! 大体、三橋、あいつ女の抱き方とか分かってねぇだろ? まあ、オレだって女、知らねーけど。慣れてねーんだから、つい何となく……とか、ぜってーねーだろう。 ねーよな、うん。 あの女、細いしガリガリだし、出るとこ全く出てねーし、……そそられるとこなんか全然ねーだろ。 魔女みてーだけど。 大体なんで浴衣なんだ。 あんな旅館の浴衣みてーな格好なんて、寝相悪かったら……乱れそうじゃねーか。 そしたら胸元が開いて……谷間が見えたり。 裾が割れてきて……太ももまで丸見えだったり。 起きたら帯だけになってたり……? そんな姿で、三橋の胸元に擦り寄って、「廉様」とか囁いたり……? 魔女だ! オレは、がばっと起き上がった。 ダブルのマットレスは、一人だと広すぎる。 つーか、カゼでもねーのに別々の部屋で寝んの、初めてじゃねぇ? 昨日、あんなに激しく抱き合ったのに! 「眠れねぇ………」 はあー、と何度目かのため息が出る。 午前2時。 いい加減寝ねーと、明日も大学だっつの。 くそ。 こんなのが、一週間続くのか? 「勘弁してくれ」 オレはもう一度、マットレスに横たわった。 三橋に腕まくらしてやってるのを想像して、想像の三橋を抱きくるむように腕を閉じる。 ちょっとだけ温もりを感じるような、気がした。 起きたのは、午前6時半。 三橋は朝練で早く出るから、こんくらいに起きねぇと「おはよう」が言えねぇ。 部屋のドアを開けると、珍しく味噌汁のいい匂いがしてきた。朝は時間ないっつって、汁物は作らねーのに、どしたんだ、機嫌いいのかな……? と、思ったら。 キッチンに立ってんのは、エプロンつけた岩清水! ダイニングテーブルに座ってる三橋に、かいがいしく味噌汁をよそってやり、「廉様、おかわりは?」とか聞いたり、あいつが大口開けて美味そうに玉子焼き食ってる様子を、にこやかに見つめてたりしてる。 新婚夫婦か! 三橋も三橋だ。茶碗を岩清水に突き出して「おかわり、いーです、か?」とか言って、メシよそって貰ったり。お前がやれ! 自分でやれっつの! そして岩清水、てめー、三橋を甘やかすな。お茶なんか自分で注がせろ。口元をぬぐうな! にこにこ笑って、イスに座るな! それはオレの席だ! オレはそっと部屋に戻った。 かと言って、寝直す気にもならねー。 イライラと狭い部屋を歩き回る。 一週間。 一週間の我慢だ。 そしたら、あの魔女はいなくなる。 それにあいつらのは、恋人ごっこだ。 本物じゃねぇ。 一週間、あの女にオレの場所を貸すだけだ。 今だけ。 一週間。 ―― 一週間だけ、オレと別れて下さい―― 三橋の言葉が、ふとよみがえった。 今のオレ達の関係って、何なんだろうな? 恋人じゃねーのかな? 三橋が玄関を出て行く音がした。 結局、「おはよう」を言ってねぇ。 オレが再びダイニングに戻ると、テーブルの上には食事の用意がしてあった。そんで、なぜか弁当箱が置いてある。 「廉様が……」 岩清水が、伏目がちに言った。 「貴方の分のおにぎりは、ご自分で握りたい、と」 「そう……スか」 三橋が握ってくれたおにぎり入ってんなら、食わねー訳にいかねーよな。 オレは無言のまま、少し冷めた朝飯を食った。 岩清水は、オレにもメシをよそってくれたし、玉子焼きも美味かったし、味噌汁も美味かった。 でも、「美味い」と言ってやる気になれねーのは、オレの為に作られたもんじゃねーからだろう。 弁当は、おにぎりだけが美味かった。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |