Season企画小説
吸血鬼なオレの誕生日・前編 (2012阿部誕)
このお話は、吸血鬼なオレとカボチャミイラの続編になります。
吸血鬼の1日は日暮れから始まる。
目覚ましの代わりに棺桶の蓋がギギィっと開いて、最近すっかり聴き慣れた、気弱げな声が呼びかける。
「アベ君、起き、て」
温かい手が、寝てるオレに触れる。と同時に、うまそうなメシの匂いがふんわりと漂って、オレはガバッと起き上がり、目の前のメシにかぶりついた。
「あ、やっ」
メシが小さな悲鳴を上げた。
ちなみに吸血鬼であるオレのメシは、目の前のニンゲンの少年だ。
いや、別にそれしか食えねーって訳じゃねーんだけど。でもやっぱニンゲンの血ってのは、朝っぱらからテンション上がる。
牙を突き立てる時に一瞬だけ抵抗されるけど、本気で嫌がってねーのは、血の味で分かるし。
とろけるくらい甘ぇーっつーのは、つまり、オレのコトとろけるくらい好きってコトだ。多分。
存分に甘い血を吸った後、べろりと傷口を舐めてやってから開放すると、そいつはぽーっと上気した顔でオレを見上げた。
スゲー可愛い。
「はよ、ミハシ」
遅まきながら挨拶をして、ぽかんと半開きになってる唇にも、ちゅっと口接けてやったら、上気した顔がますます真っ赤になった。
ヤベーくらい可愛い。
ちゅっとキスするだけじゃなくて、舌をねじ込んで舐め回してぇ。
牙だけじゃなくて別のモンも突き立てて、無茶苦茶に揺さぶってドロドロにしてやりてぇ。
凶暴な欲望がムラムラ沸き起こり、うっかり手を伸ばしそうになる。それを何とか理性でこらえて、オレはベッド代わりの棺桶から一歩踏み出した。
吸血鬼のオレとニンゲンのミハシが出会ったのは、この間のハロウィンの夜だった。
そん時、ミハシは全身に包帯を巻き付け、ミイラのガキのフリしてた。
隙をついて頂戴した甘い血に感動し、押して押して押しまくって同居させることに成功したのは、もう1ヶ月も前のコトだ。
以来、カボチャランタンを被った「みずみずしい」ミイラ少年は、今は吸血鬼のオレの城で、専属の侍従として働いている。
まあ侍従つっても、主な仕事は「エサ」だけどな。
「あー、よく寝た」
棺桶から出てぐんと伸びをし、それからパジャマをぽいぽいと脱ぎ捨てる。
ミハシはそれをあわあわと拾い、次にドレスシャツをオレに渡した。
黒のスラックスをはいた後、ベストを着込んで黒のドレスコートを羽織ったら、スタイリッシュな吸血鬼の出来上がりだ。
オレの着替えを手伝いながら、小ネズミのようにあわあわと動くたび、侍従の制服の襟元から白い首筋が見えてて、スゲーうまそう。
ミイラの格好してた頃、巻き付けた包帯の隙間からちらちら肌が覗いてたのもうまそうだったけど、今の無防備な首筋もそそるよな。
さっき「今日のひと咬み」を終わらせちまったばかりだけど、むしゃぶりついて咬み付いて、ゴクゴクペロペロしたくてたまんねー。
別に毎日血を吸わなきゃいけねーって訳でもねーんだけど、ホントこいつの血は甘くて、いい匂いがして、1日何度でも咬み付きてーくらいだ。
オレがいやしいんじゃねぇ、ミハシが誘うから悪ぃーんだぜ?
けど、コイツはニンゲンだからなぁ……。
ニンゲンは魔物よりか弱くできてっから、血を吸い過ぎると倒れるしな。ヘタすりゃ死ぬし。
同居始めた当初は、ふらふら誘われるようにガブリとやっちまって、3日目にミハシに泣かれたんだ。
「み、ミイラになっちゃうよっ」
って。
人体の水分量は60〜70%、血液の占める割合は全体重のうちの1/13〜1/10。
つまり体中の血液を全部オレが飲み尽くしても、他の部分に水分が残ってっからミイラみてーにカラッカラになったりはしねーんだけど……そう言ってやったら「お世話になりました」って出て行こうとしたから、さすがに慌てて謝った。
それ以来、「ガブリは1日1回だけ、しかも少量」って決まりごとができちまった。
スゲー残念。
ミハシがニンゲンじゃなかったらなぁ、って思う。
けど、ニンゲンの血だからこその甘さだろうし。血を吸い放題にすんのと、極上の血をちょっとずつ貰うのと、どっちがいいのか選べねぇ。
まあ、そんな訳で欲求不満だ。
毎日毎日、浴びるくらいにあの甘い血を味わい尽くしてーんだけど……やっぱ、死なせる訳にいかねーしな。
その代わり、つったらナンだけど、あの体を好きなだけ味わい尽くすんでもいいような気がする。
つーか、味わい尽くしてぇ。
あんだけ血が甘ぇんだ。きっとどこもかしこも甘いんだぜ。肌も汗も唾液も、勿論、精液もな。
考えただけでヨダレが溢れる。
問題があるとすりゃ男同士ってことだけど、オレは魔物だし。魔物に道徳観念もクソもねーし、味わうのはオレだから別にいい。
別にいいが、ミハシにドン引きされても困る。
1回じゃイヤだしな。
おりしも、もうすぐ誕生日。
魔物にハッピーバースデーもクソもねぇと思うけど、ミハシはニンゲンだし。プレゼントをねだってやれば、「オレにできることなら」とか何とか、健気に言ってくれそうな気がする。
勿論、プレゼントはミハシだ。
血だけじゃねぇ、丸ごと全部オレのにしてぇ。
食いてぇ。つか、絶対食う!
目前の白い首筋をそっと優しく撫で上げながら、オレはべろりと口元を舐めた。
(続く)
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