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Season企画小説
狂おしくキミを恋う(Side A) 5
 夢を見た。


 ピンポーン。呼び鈴が遠くで鳴る。意識を向けるとガチャガチャと音がして、そうだ、三橋が帰って来る。
 ただいま。外は寒かったよ。この雪で電車が動かなくて、帰って来ちゃったよ。
「ああ、そうか」
 そうだよ。さむいよ。ほら、阿部君も凍えてる。
「あっためてくれ」
 あったまろう。
 三橋の体を抱き締める。なんて細いんだ。まるで高校時代みてーじゃねぇか。見上げる顔が幼く笑う。胸を焦がす、微笑。
「好きだ、三橋」
 押し倒す。寒い床の上。ここは部室? 野球部の部室にエアコンなんてなかった。ああ、これじゃお前にかぜをひかす。
 部室でお前の着替えを見るたび、ずっとこうしたいと思ってた。服を引き裂き、床に組み敷き、唇を奪って、泣かせたいと。
 オレに無茶苦茶にされて、身をよじる三橋。目の縁を赤く染めて、唇を潤ませて。
「好きだ、好きだ三橋」
 初めて結ばれたのは、お前の家だった。春、オレの受験が終わった後。合格祝いにお前を貰った。一生大事にしたいと思った。
 そうだよ、大事にする。大事にするから。
「なあ三橋、怖い夢を見た」
 どんな夢?
「お前がオレを捨てる夢」
 三橋は返事の代わりに、オレの首に腕を絡める。薄い唇が言葉を刻む。
 何だ、何て言った? 聞き取れねぇ。三橋。
 阿部君がいないと、オレ、おかしくなっちゃうよ。
 ああ、それ、高3のときに聞いたセリフ。
 そうか、こっちが現実だよな。あれは夢だ。悪い夢だ。良かった。
「夢だ……」


 目が覚めると、三橋の部屋でミットを抱えて横になっていた。
 寒い部屋。家具とゴミが残された、寒い部屋。
「ゴミじゃねぇ、よな」
 そうか、こっちが現実か。ミットを抱き締めて、また泣いた。


 どんなに辛くても朝は来る。月曜日。オレはヒゲも剃らず、適当な服にボサボサ髪のまま、大学に行った。
 心は虚ろなのに、なんでか頭は働いて、授業も受けたし飯も食ったし、実習もこなして、研究室行って、夕飯食って、カテキョー行って、大学戻って、電車に乗った。
 黙って暗い部屋に帰り、シャワーだけ浴びて、布団に潜って、ミット抱いて寝た。


 夢を見た。


「ワンナウトー!」
 三橋が叫んだ。マウンドの上で。叫びたいのに声が出ない。駆け寄りたいのに、駆け寄れない。なんで? ああそうか、怪我をしたからだ。オレはベンチで、三橋にジェスチャーを返すのは、田島だ。
 田島がマウンドの三橋に駆け寄る。三橋の右手に右手を重ねる。頭と頭をぶつけ合う。あいつらホント仲いいな。通じ合ってて羨ましかった。
 でも三橋は、オレを選んだ。
 あいつが恋したのはオレだった。
 一緒にプロは目指せなくても、一生支えて行きたいと思った。あいつの光り輝く未来を。
 身を引け。
 巣山の声が響く。
 あんなぁ。花井が口ごもる。
 お前達の関係、応援できねぇ。
「オレは三橋の側にいたい」
 三橋はそれをのぞんでねーぞ。
 二人の向こうで三橋が立ってる。三橋、何とか言ってくれ。やりなおそうって言ってくれ。
 三橋の薄い唇がわななく。
 ぽたぽたと床に落ちる涙。
「泣くのとか、我慢できねーの?」
 誰の声? ああ、オレの声だ。ごめん三橋、傷つけた。抱き締めてやるべきだった、あの時。
「ごめん」
 謝っても三橋は泣くだけ。ただ、首を振るだけ。
「三橋………」
 三橋。今、お前を抱き締めたいよ。


 そしてまた、朝が来る。


 火曜日。ヒゲも剃らず、着替えも適当で、ぼさぼさ髪のまま大学に行った。三橋のことだけ考えてても、授業も受けたし、メシ食ったし、実習こなして、研究室行った。夕飯食べて、カテキョー行って、大学戻って雑用こなして、電車乗って帰って、また一人。
 暗い部屋で、ミット抱いて寝た。


 夢を見た。


 夢を見た。


 また三橋の、夢を見た。

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あきゅろす。
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