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小説 2
4 朝礼
 用意された長衣には、凝った刺繍がされていた。オレのは黒と紫、廉のは黒と金銀で、竜の模様が描かれている。宝石やなんかは付いてねーから、盛装じゃねーんだろうけど。でもちゃんと紫使ってる辺り、正装ではあるらしい。
 こんなの着せて、朝礼? 何させる気だ?

 召使に先導させて城の廊下を進み、階段を下る。やがて着いたのは、大広間か? 入り口から奥にかけて、ゆったりとした広めの階段状になってて、一番上、つまり一番奥には玉座が置かれてる。
 まあ、聞かなくても分かる。親父の席だな。
 その周りのひな壇みてーな場所には、顔に見覚えあるようなないような、多分血族の連中が集まってた。

 で、オレ達もあそこへ行くべきなんか?

 ひな壇を見上げて、ため息をつく。
 あんな恥ずかしい場所、上りたくねー。
 フミキらが見たら、絶対、指差して笑われる。タジマも……多分、笑うんじゃねーか?

 躊躇したのを、どう勘違いしたのか、小バカにしたような笑い声がする。勿論、ひな壇の方からだ。
 あのな、オレは萎縮してんじゃねーの。つか、むしろ、バカに見えんのはお前らだっつーの。
「殿下、どうぞあちらへ」
 オレの心を知ってか知らずか、大臣か議員か何かの偉そうな男が、促してくる。
「あー」
 オレは廉と連れ立って、イヤイヤながらひな壇を上った。イヤなので、隅っこの方に立っといた。それには何も言われなかった。

 ひな壇以下、入り口の辺りまで、ずらっと両サイドに人が並ぶ。貴族とか、議員とか? 剣を腰につけてんのは、軍の関係者か? 合間合間に、槍を持った護衛兵が控えてる。
 全員が整列したところで、親父が入って来た。
 ひな壇の真後ろに小さな扉があったみてーで、そこから太った体がにゅっと現れて、ちょっと驚いた。

 親父が玉座に座ると、同時に下の出入り口が大きく開いた。
 槍を持った護衛兵が現れ、一礼して脇に退く。
 それに続くように入ってきたのは……秋丸だった。

 何だ、秋丸の出迎えに呼ばれただけか?

 オレは廉と視線を交わした。廉も、秋丸を見て少し嬉しそうだ。
 大広間の全部の視線を受けながら、秋丸はひな壇の手前まで来て、うやうやしくひざまずいた。
「大変遅くなり、面目ございません。ただ今帰還いたしました」
「うむ。まずはご苦労であった」
 親父がえらそうに返答する。
 そんなに回数しゃべってねーけど、口調が儀式めいてんのは分かった。なんか笑える。成程、これは儀式なんだな。

「陛下に重要なご報告がございます」
 秋丸もまた、儀式めいた口調で言った。
「ビジョーが多数の大砲を入手したのを確認いたしました」
 どよ、と大広間にどよめきが走る。
 今更だろ。何で驚く?
 そう思って、はっとする。一部の人間にしか、まだ知らされてなかったんだな? 王城でこうなら、庶民や下級兵士が知らねーのも当然だ。
 情報統制、か。こういうのを言うんだな。

 そして秋丸は報告した。
 ムサシ・ノウとビジョー連合とのやり取り。ムサシ・ノウの戦争準備の様子。そして、ムサシ・ノウからの戦争協力の依頼について。
「ムサシ・ノウ王からの書状を預かって参りました」
 秋丸が、小脇に抱えてた書状を捧げ持ち、頭上まで持ち上げた。ひな壇のすぐ下に立っていた、派手な長衣の大臣が、それを受け取って親父に渡した。
「うむ」
 親父は中身をさっと読んで、秋丸に聞いた。
「他に報告は?」
「ございません」
 秋丸が答えると、一つうなずき、立ち上がる。そして、大声で言った。
「閣議を開く!」
 
 うわー、儀式だなー。
 オレは呆れながら、出てきた扉から去ってく親父を見つめた。
 集まってた親族連中も、さっさとひな壇を降りていく。続いて降りながら、伸びをした。

 朝から馬鹿げた儀式に付き合わされて、うんざりだ。部屋に帰って、もう一眠りしてー。と、そう思って。

 けど。
 さっきの、派手な長衣の大臣が、近付いてきて一礼した。
「黒晶五星殿下。殿下も会議に御参加願います」
「はあ? 何で?」
 不機嫌を隠しもしねーで言うと、大臣はオレの右手を指し示した。
「陽光次将殿下の名代にて、御参加、御発言願います」
 そういえば、元希の指輪を預かったままだった。
 くそ、あの兄貴、まだ回復しねーのかよ?

 オレは渋い顔をしたが、「分かった」と返事するしかなかった。

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あきゅろす。
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