小説 1−8
嵐のビジホ・6 (にょた・R18・完結)
三橋の涙を見て、頭を満たしてた白い濁りが、ちょっと薄れた。
早く出してぇってだけだったのがなくなって、いや、出してぇのに変わりはねーんだけど、「今すぐ」じゃなくてもいいかと思えた。もうちょっとゆっくり、味わってもいーかな、って。
耳に入んなかった雨音が再び聞こえるようになってきて、どんだけ余裕失くしてたんだとおかしくなった。
「三橋……」
しがみつく彼女をキスでなだめ、身を起こす。
「あ……」
濡れた唇から漏れる、甘い声。
甘い唾液がとろっと糸引いて、半開きの口元に光った。
そのぽやっとした顔から、目線を下げて――繋がってる部分を見た瞬間、赤い色が紅飛び込んできて、ギョッとした。
「お前っ……ハジメテだったのか?」
ビックリして声を上げると、三橋がびくっと肩を竦めた。
「ご、ごめんな、さい」
って。
「いや……」
ゴメンじゃねーだろ。つーかむしろ、謝んのはオレの方じゃねぇ? いくら抵抗されなかったっつっても、あんま合意とはいえねーやり方だったよな。
煽られたのは事実だったけど、なんつーか、衝動的にヤッちまったし……。
ずっぽりと根本まで埋めた肉を少し抜くと、そこから赤い血がじわじわと滲み出した。
全部抜いたら、溢れ出してくんじゃねーかって思うと怖い。シーツにはちょっとだけ染みがついてて、慌てて浴衣をそこに敷く。
処女、って。こいつ今、いくつだっけ? 3年目? じゃあ24、5歳か?
道理でキツいハズだ。先っぽ挿れただけで止まっちまったのも、そうか、処女だったからなのか。
動きを止めて、オレがぐるぐる考え出したの、分かったんだろうか。
「いやっ!」
三橋がいきなり声を上げて、オレに白い腕を伸ばした。
片手を突いて起き上がり、繋がったまま、オレの首元に抱きついてくる。何かと思ったら、もっかい涙声で言われた。
「いやっ、やめない、で……っ」
ぎゅっとしがみつかれ、そんな可愛いこと言われたら、勿論「やめようか」なんて言えねぇ。
ただでさえキツキツなのに。きゅうっと締め付けられて、「はっ」と息を詰め、射精感をやり過ごす。
「好き……」
耳元にくれる告白。
しがみつく体をやんわりと引き剥がし、顔を覗き込むと、デカい目からぽろぽろ涙がこぼれてる。
その涙をちゅっとキスで吸い取って、ぼさぼさになっちまった髪を撫でる。
女に泣かれんのは苦手だ。どうすりゃいいのかワカンネーし、ウゼェし、ため息しか出ねぇ。
けど、今はそんな風に思えなかった。
可愛い。
「お前、可愛いな」
バカだし、天然だし、人の話聞いてねーし。ムカついたり、イラついたりすることもあるけど。結局それって、ずっと気になってたってことなんだな。
ぎゅっと抱き締めて、もっかいベッドに横たわらせる。
「痛くねぇ?」
訊きながらゆっくり揺さぶり始めると、琥珀色の目と目が合った。
「続けていいか?」
すんっと鼻をすすりながら、かすかにうなずかれて、じわっと胸が熱くなる。
柔らかな体、白い肌、しっとりと手のひらに吸い付く触感。息を詰め、声を漏らすたびに、ふわっと甘い息が香る。
細い腰も、手のひらん中に収まる胸も、何の色もついてねぇ様子も、何もかもが好みだ。
下がり眉の間にシワが寄ってるし、とろけそうって感じじゃねーし、多分「痛くない」っていうのはウソなんだろう。
けど、だからって責める筋合いはなかった。
今更やめるつもりもねぇ。
「オレも好きだ」
上から覆い被さり、顔を覗き込むように告げると、涙まみれの顔がくしゃっと歪んだ。
「阿部さんっ」
ぽろぽろ涙をこぼしながら、三橋がぎゅっとオレの背中に縋り付く。
これからはできるだけ優しくしてやろうと思った。
1回終わった後、腹が減ってたのを思い出した。
三橋はだるそうに寝っ転がってぼうっとしてたけど、やっぱ同じく腹が減ってた見てーだ。しばらくすると、くぅっと可愛く腹を鳴らした。
「ほら、メシ食えよ。せっかく買って来てやったんだから」
手を貸して起き上がらせると、三橋は痛そうに息を詰めつつ、ちょっと恥ずかしそうにヒザを立てて、腕で胸を隠した。
さっきは平気で浴衣脱いで見せたくせに。そのギャップは何なんだ?
色っぽくて可愛くて、ざわっとする。
オレは下着だけはけばいーかと思ってたけど、そうか、女はそうはいかねーよな。
つっても、浴衣には血の染みが着いちまってて、着せるもんが何もねぇ。仕方なく、クローゼットからオレのYシャツを取って来て、「着てろ」って渡した。
じわっと赤くして、Yシャツを受け取る三橋。おそるおそる袖を通すとやっぱりデカくて、袖も丈も余ってて可愛い。
「お……おっきいです、ね」
って。恥ずかしそうに言われて、不覚にもくらっとした。
いつもの天然だって分かってんのに、誘ってんのかって思えて仕方ねぇ。
小さなソファセットで向かい合い、弁当とサラダを食べたけど……冷めてたせいか、味がよく分かんなかった。
一方で、三橋はっつーとよく食った。
弁当も完食して、サラダも食って。「よく食うな」つってわざと呆れたように言ってやったら、ふへっと無防備に笑った。
「だって、せっ、先輩が、買ってくれたものだ、から」
照れ臭そうに言われて、ドキッと心臓が跳ね上がる。
何だそれ、意味ワカンネー。そう思いつつ、目の前の女から目が離せなくて、体温が上がってく。
オレのYシャツをだぽっと着て、小柄で細身で、赤い顔して……デカい目で上目遣いに見つめられ、こっちの方が赤くなる。
抱き寄せて衝動的にキスしたら、「ひあっ」と色気のねぇ悲鳴が上がった。
白地のYシャツの胸元に、つんととがった乳首が透ける。もっかいベッドへ連れ込むと、三橋がカッと赤面した。
窓の外はいつの間にか静かになってたけど――大雨と強風がやんだせいか、それともオレの耳に入んねぇだけか、自分ではもう分かんなかった。
ケータイがチカチカ着信があったことを知らせてたけど、それがキャンセル待ちの連絡だろうと、もうとっくにどうでもよかった。
(終)
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