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小説 1−8
嵐のビジホ・1 (社会人・にょた・阿←三・アベミハ子)
※三橋が女の子です、苦手な方はご注意ください。






 日帰りだったハズの出張先で、急きょ一泊することになったのは、主に台風のせいだった。
 風で飛ばされた看板か何かが架線に引っかかり、停電したとかで新幹線がストップ。復旧が何時になるかワカンネーって言われて、仕方なくホテルを取ることにした。
 オレ1人なら、できるだけ早く帰りてーし、駅で復旧を待ってても良かったけど、あいにく後輩と一緒だった。
 仕事はできるが、いつも何だかぽやーっとして、何考えてっかよく分かんねぇ女、三橋廉。今も、チケット払い戻しの長蛇の列をぼうっと眺めて、オレの後ろに突っ立ってる。
 このままじゃ帰れねーんだ、って。状況、分かってんのか?
「仕方ねぇ、どっかホテルで一泊するぞ」
 オレがそう言うと、三橋はキョドキョドとあちこちに視線を巡らせて、「は、あ」つって首を傾げた。
 その反応の鈍さに、ホント呆れる。
 時刻はまだ、夕方の5時前だ。雨は降ってねーけど風が強くて、空は雲に覆われて薄暗い。
 こんな日はさっさと帰って、酒でも飲みながらゆっくりTVでも見てーんだけど、そういう訳にもいかなそうだ。

「まあいーや。とにかく、ホテル探さなきゃなんねーから。ついて来い」
 話し合っても時間の無駄だ。きっぱりと判断し、せかせかと言い捨てて背中を向ける。
「あ、阿部、さん……」
 三橋は慌てたようにオレを呼んで、時々つまずきながら3歩後ろをついて来た。

 焦ったのは、なかなか宿泊先が見つかんなかったことだ。
 どうやら、同じこと考えて宿泊を決めた奴らが多いらしい。ネットで調べて、周辺のビジホに片っ端から電話したけど、どこも満員だって言われた。
 運悪く、何かの地方イベントと重なったみてーで、元から予約でいっぱいだったらしい。シングル1部屋だけは確保できたけど、後はキャンセル待ちなんだそうだ。
 まあでも最悪、三橋1人を泊まらせて、オレだけ復旧待っててもいーしな。一応キャンセル待ちを申し込んで、そのビジホに向かうことにした。
 途中のコンビニで下着と酒を買い、軽く摘める軽食も買う。
「ホテル、シングル取ったから」
 ことの経過を簡単に説明してやると、三橋はじっとオレを見つめて、「ホテル……はい」とうなずいた。

 うなずきはしたものの、分かってなさそーだな、と何となく思う。
 仕事もできるし、そこそこいい大学も出てんだから、バカじゃねーんだろう。けど、どういうヤツかって言われたら、「ぼうっとしたヤツ」としか言いようがねぇ。
 会議でもミーティングでも、話聴いてねぇこと多いし。男とか女とか以前に、こういうヤツは苦手だ。
 だから、あんま関わんねーようにしてたんだけど……何でか向こうは、オレのことが好きらしい。
『先輩、好きです』
 半年前のバレンタインに、チョコ渡されて告白された。
 勿論、やんわりと断った。顔は可愛いし、色白で肌もキレイだし、好みっつったら好みだけど、コイツと付き合ってる自分ってのが想像できねぇ。
 仕事以外で会話は続かねーし、そもそも、ぼうっとして何考えてっかワカンネーようなヤツと一緒にいると、ストレスが溜まる。
 けどまあ、半年も前のコトだし、もう時効だろう。
 あれ以来何も言って来ねーし、態度だってそう変わんねーんだから、こっちも忘れていいんだよな?


 三橋を追い立てるようにチェックインを済ませ、前払いで料金を払う。
 レストランもルームサービスもねぇっつーから、メシは外に出る必要があるらしい。
「キャンセルが出ましたら、お電話させて頂きます」
 ビジホらしいシンプルなフロントで、スタッフがにこやかに頭を下げた。それに「お願いします」と答え、樹脂スティックのついた昔ながらの鍵を受け取る。
 エレベーターを上がり、廊下を歩きながらまず確認したのは、自販機の有無と避難路だ。
 部屋もビジホらしく、シンプルな内装だった。
 ベージュの壁紙に、藍色のカーペット。クローゼットやテーブル、ソファセット、ベッドなんかが落ち着いたダークブラウン。 
 そのベッドも、シングルといいつつ、セミダブルくらいありそうで、おおっ、と思う。
 ツインの部屋の方が、案外ベッドは狭いんだな。

「一休みしたらメシ行こう」
 三橋に告げて、窓際のソファにドカッと座り、会社の方に電話する。
「お疲れさまです、阿部ですが。実は新幹線が停電で……」
 上司に連絡すると心配されて、『無理しないように』って、ゆっくり帰るよう指示された。まあ、出張中にケガでもされたら困るよな。
 有給くれるっつーから、喜んでそれに甘んじる。
『それと、女の子と2人だろ? くれぐれも間違いのないように』
 追加で釘を差すように言われたけど、それこそ余計な心配だ。いくら可愛くたって、そうそう誘われねぇっつの。
「はっ、大丈夫ですよ」
 思わず鼻で笑うと、『阿部……』ってたしなめられたけど、それ以上は何も言われなかった。

 ケータイをしまいながら、リモコンで少しデカめのTVを点ける。
 ちょうど夕方のニュースで台風の中継をやってたとこで、新幹線の復旧も、まだメドがたってなさそうだ。
 一休みなんかしてねーで、雨が降る前にメシ食いに行く方がいいかも知んねぇ。つーか、店ってやってるよな?
 窓から外を眺めると、空が妙に白っぽくて、雲がどんどん流れてく。防音ガラスで音は聞こえねーけど、風もかなり強そうだ。
「おい、雨降りそうだぞ」
 声を掛けながら振り向いて、あれっ、と思った。いるハズの後輩の姿がねぇ。
 三橋はどこ行った? トイレか?

 けど、まさかユニットバスの戸口に近付いて、音を聞く訳にもいかねーし。「トイレ、行ってきます」なんて報告されても答えようがねぇ。
 文句を言うにも言えなくて、はぁ、と1つため息をつく。落ち着かねーのは、台風のせいか?
 キャンセル待ちの連絡、早く来ねーかな。
 ソファに座り直して足を組み、リモコンをいじってTVのチャンネルを次々変える。
 やがて、ユニットバスのドアが開いて、ようやく三橋が中から出た。
「おい……」
 メシ食いに行くぞ。そう言いかけて、絶句する。

 三橋はシャワーを浴びてたらしくて……ホテルの浴衣をきっちり着込み、洗い髪をタオルでまとめてた。

(続く)

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あきゅろす。
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