セイレーンの恋/完結
ホフマン
賑やかに肉を食いちぎり談笑する色とりどりのセイレーン達。
戦利品の酒を杯に満たし酔い、狩りの成功をコロニーの皆は喜び、分かちあっていた
ただ、ホフマンだけは厳しい目つきで黙々と血の滴るはらわたを貪っていた。
(オリンピアの奴ッ!糞…)
マザーとの会話をオリンピアを通し、見聞きしたホフマンはやりきれない気持ちを胸に秘め、ただ食事をとっていた
岩にもたれかかり、ラム酒を飲んでいたラダメスが声をかける
「お前も飲まないのか?今日の酒は上等なもんだとお前だって喜んでたじゃないか」
そういって杯に口を付ける
「オリンピアが心配なのか?」
低い声で囁く
ホフマンはただ無言で頷きくわえていた腸のような物を置きラダメスの方を向き杯を差し出した。
「俺にも一杯くれ」
杯に琥珀色の液体が満たされ、それをぐいと飲み干す。
「やっぱりあの船員は殺さないといけねぇ…
マザーと、オリンピアがさっき話していたんだ…人と添い遂げるなら対の者を食わないとコロニーから出ていけない。と」
「オリンピアに喰われるか。なるほどな。お前が不自然だった理由はわかったよ」
「しかし…俺はオリンピアに喰われても構わないんだ。
同じ魂の者が一つになるだけなんだから。
けどオリンピアの奴もためらってやがる…
コロニーの事を考えれば一対が減るのは損害だからな。
…またあの船員を見つけて、殺すのは簡単なんだ…。
だが殺せば悲しみでオリンピアの歌も死ぬだろうな。
歌の死んだセイレーンは哀れでしかない。そうだろ…」
じっと杯を握りしめ遠くを見据えてそう…つぶやいた
「…唄うことが出来ない俺達には、哀しいが一つに戻ることが幸せ…なのかもしれんな…」
ラダメスが一気に飲み干しそう答えた。
「次の狩りにはオリンピアと俺も出るだろ。あの人間に会わなければいいんだけどな」
「船員なんて探しでもってしないと逢うことなんてないだろ。ほら。オリンピアも戻ってきたぞ。
今日の祝いを楽しんでても罰にはならんだろう。
杯をもっていってやれ」
空いている杯をホフマンに渡し、ラダメスはアイーダ達の方へと向かって歩いていった。
暗い顔をしたオリンピアを見たホフマンは体が捻り切られるような気分で杯を差し出した
「話はもう済んだんだろ。呑もうぜ。」
精一杯陽気に振る舞ってオリンピアに酒をつぎ耳元で囁いた
「俺はいつでも喰われる覚悟はしてる。俺の翼を切り落とせば旅の資金に困らないぐらいにはなるぜ。
次の狩りまでに考えててくれよな」
オリンピアは驚き、言い返そうとしたが口元に杯を当てられ口を噤まざるを得なかった。
「今日はとりあえず楽しもうぜ。ろくに喰ってねーだろ?」
「そうね…」
差し出された肉を噛み締めながら、オリンピアはただただ思いを巡らせていた…
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