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セイレーンの恋/完結
マザー
巨大な洞窟の壁面いっぱいにマザーはオブジェのように、鎮座していた。

そして美しい歌声が繭を紬ぎ、糸のような魔力の塊がマザーの胸元へと浮かび上がっていた。

そして、口元へ元は雄のセイレーンだった紺碧のシーサーペントが「肉」を口移しで与えていた。


海の女王の食事の歌をオリンピアは五感を澄まし、聴いていた。


そして、歌声は止まり優しい声が響く。

「オリンピア…何かご用かしら?」

全てを見透かしたかのようなマザーの瞳の前に、オリンピアは動揺を隠せなかった。


「マザー…。以前頂いた絵本のことでご相談が…」

外見は人間の年齢としては50歳程だろうか。
とても美しく、老いてなお美貌を秘めたマザーは目を細め、愛しい娘へてこう告げた

「貴方も、ヒトに恋をした。そうでしょう?」

「マザー…それはどういうことですか?この不安感は恋というものなのですか?」

オリンピアは声を震わせながら、美しいマザーに問う。 

先ほどまで口元付近にいた紺碧のシーサーペントは席を外そうと洞穴内の外へ身をくねらせていた。


「オリンピア…よく。お聞きなさい。
ヒトを愛してしまったセイレーンはセイレーンであることを捨て、ここから出てゆかねばなりません。それに…」

一呼吸置いてマザーは告げた

「貴方の対…ホフマンを貴方が食らわなければコロニーより出て生きてゆけません。

元々は対の魂です。
…離れては生きてゆけぬのです…。」

哀しげにマザーは俯きそう告げた。


「マザー!なぜ、私をお叱りにならずそのようなことを教えてくださるのですか?人魚姫の絵本も。なぜ、そこまで教えてくださるのですか!?」

「私もかつてヒトを愛したことがありました」



暫くの重い沈黙の後、マザーは口を再び開いた。

「私は当時ジュリエッタと言う名で呼ばれていました。
貴方と同じように、気まぐれで助けてくれた船員に恋心を抱き、貴方と同じようにマザーへ問うたのです…。
しかし。私には対のロメオを殺し、食らうことが出来なかった…。

オリンピア。もし。貴方がヒトへとなりたければホフマンを食らう覚悟をなさい。
そうすればホフマンの魔力も貴方の一部になります。
ヒトの真似も今より巧くできるようになるでしょう。

…しかし。コロニーには戻ることは許されません。

貴方を見ていると…私の昔を見ているようでなりません。

よく。お考えなさい。きっと貴方を通してホフマンもこの言葉を聞いているでしょうから。」

紺碧のシーサーペントが再びマザー足元に戻り重く響く声でオリンピアへとこう告げた

「ジュリエッタはずっと、後悔をしている。選択を誤るな…。我々は二人で一人だ。ジュリエッタに食らわれるなら、私はそれで良かったのだ…」

哀しげに紺碧のシーサーペントはマザーを見上げた

「当時のマザーは年老いていて時間も残されておらず儀礼までにロメオを食らう決心もできませんでした…。

貴方も分かるでしょう。
マザーにもなりたかった。子を為す喜びを味わいたかったのです。

ふふ…二つも求めるなんて愚かでしょう?
私はマザーとしてまだまだ未熟ですわ。

オリンピア。お聞きなさい。
貴方には時間があります。よくよく考え、好きに生きるのです。

他種族でも喜んで迎え入れてくれる町があると聞きます。

…後悔のないようになさい。」


ヒトと添い遂げる為には対のホフマンを食らわなければならないという事実に、オリンピアは動揺を隠せなかった。

マザーの紺碧の瞳が全てを見抜くかのようにただ、オリンピアを見据えていた。



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あきゅろす。
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