セイレーンの恋/完結
五回前の満月
それは五回前の満月の夜だった。
偵察に出たオリンピアは小さな商船が近くを通ると話を聞いていたため、チームはアイーダペアとオリンピアペアの四人構成だった。
そして、夜更けに通りかかった商船をいつものように襲撃した。
だが…いつもとは少し様子がおかしかった。
セイレーンや海賊を警戒した商人の雇った魔術士が乗っていたようだ。
船はとまらず、逆に雌達のいる岩場へとむかってきた
「魔術士を飼ってる船だったわけね…。どおりで止まらないわけだわ。オリンピア。あんたその情報聞いてた?」
アイーダがはばたき船をめざす。
力業で止めるつもりだろう。
「そんな話聞いて無いわ!直接止めてやりましょう…。この海の歌姫達相手に舐めた真似した報いよ!」
怒りを現に、オリンピアも飛び立った。
既にラダメスとホフマンも船の襲撃をはじめたが、甲板に居る者をあらかた片付けた所でラダメスが口を開いた
「おかしいな。オリンピアとアイーダなら止められるだろうが皆起きてやがった…」
ちょうどその時、魔術士と数人の船員が甲板下より表れ、ラダメスに網を被せとらえようとしていた。
間一髪、空へ上がり網から逃れたラダメスは、魔術士をしとめようと滑空をはじめた。
丁度その時、アイーダとオリンピアも船に到着し、残った船員の首をいつものように掻き切った
「ちぃ!雌だけでも一匹持って帰るぞ!」
魔術士は積み荷に隠れていた他の船員に命令を下した。
そして運悪くオリンピアの足に鎖が絡み付く。
「オリンピア!」
ホフマンが叫ぶが人が予想外に載っていたためその攻撃をかわし、爪で引き裂くので精一杯だった。
「他の奴らも捕まえろ!」
魔術士の怒号が聞こえる。――――が、魔術士側には三体のセイレーンを捕まえる程の戦力は残っていなかった。数人の船員とセイレーン達が戦っていたが、所詮、狩りのための生き物と武器を持たないと戦えない生き物の差のため、屍は増えていった。
(何!この鎖…!!早くワタシもいかなければ!)
オリンピアは足と羽に引っ掛かった鎖を力のかぎりにひっぱった。が、びくともしない。
魔術士は小舟を下ろし、オリンピアを連れていこうと鎖に手をかけた。
その時、一人の船員が曲刀で鎖を切り裂いた
「早く逃げろ!このままじゃおまえもバラされるか慰み者になるかだろう!」
しばしオリンピアは呆然としていた。
「何をぼんやりしている!早く逃げろ!」
「おい!おまえ勝手になにをやっている!襲われているのはこっちなんだぞ!!」青紫のローブの魔術士が小舟より叫ぶ
「でもお前は…お前だけ逃げようとしただろう!俺達を囮にしてッ!!
それが気に入らねえんだよ!」
そういって、船員は海へ飛び込んだ
「あばよ!もう会わないことをいのるがね!!」
赤褐色の短髪を水に濡らし、その船員は港へと泳いで行った
「なんなのよあいつ…」
オリンピアがつぶやき、そして獣の瞳に変わった。
小舟で逃げようとした魔術士を詠唱をさせる間もなく喉ぶえを引き裂いた。
「オリンピア!大丈夫か!?」
ホフマンが近くに飛びよる。
そちらもあらかた片付いたらしい。多少の負傷はあるがあとは解体するだけのようだ。
「しかしあの船員…変な奴だったわね…。オリンピアを助けるなんてどうかしてるわ。」
とアイーダ。
「しかし、収穫はあったんだ。早く解体して撤収しよう。アイーダとオリンピアは船室内のコンテナを調べてくれ。魔術士が乗ってたってぐらいだからよほどの物が積んでたんだろう」
「OK!いくよオリンピア。」アイーダが無理やり甲板を剥がし船室へと入っていく。
オリンピアはその時から少し、おかしな気分になっている自分に焦っていた。
(食料に助けられるなんて…!!しかもこの焦りは何?変だわ。マザーに相談しないと…)
船室内からは宝石や魔法の道具が沢山見つかり、それもコロニーに持ち帰ろうと、雌の中でも力自慢のアイーダが一人袋に入れ飛び立った。
「すげーな相変わらず…。次のマザーはオリンピアかアイーダどちらかだろうな。なぁラダメス。」
「無駄口叩くな早く帰るぞ。夜が明けちまう。」
無言で袋を差し出すラダメスに促され渋々ながらホフマンも飛び立った。
「オリンピアもぼーっとしてないで、いくぞ」
投げられた袋を空中でキャッチし、オリンピアもコロニーへと飛び立った。
「しかし…変な奴も居るもんだ…」
ラダメスも最後の袋を足に握り締め、朝焼けの海を飛び立った。
そして月は巡り、次の満月に狩りは始まる…
(マザーにあの時の事を話したら…外された!?一体どうして…)
マザーに狩りの後、妙な気分の話をしにいった。そして人間の絵本と、しばし狩りには出るなとマザーより告げられた。
その一冊の絵本
「人魚姫」
を見てオリンピアは悩み続ける。この感情は、なんなのかと…
最初はたわいもない童話だとバカにしていた絵本も月日が経つたびページがすりきれるほど、オリンピアは夢中になっていった…
そして、さらに月は巡り、再び、狩りへ出る許可が降りたにも関わらず、オリンピアは出たがらなかった。
恐らくこの感情が「恋」だとするなら…
ワタシはあの船員を引き裂くことができるのだろうか。
磯の風のよく当たる崖に一人座り、物思いに耽っていた
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