セイレーンの恋/完結
よくある御伽話
子供の頃よく見た絵本にあった人形姫。
人間はそんな話が好きなようだと仲間達は笑うけれど、良い話じゃないかと金髪の美女が憂いを秘めた微笑で一人呟いた
海辺の崖に座り、再び呟いた。
「ワタシも人魚姫みたいに恋というものをしてみたい…」
彼女はその金糸のような髪、そして端正な顔立ち…
それだけは「ヒト」だった。
肌の色は青く、腕のあるべき場所は羽が生え揃い、鮮やかな色彩が美しい。
尾羽は長くさらに鮮やかな桃色と緑のグラデーションが人工的なほどだ。
足は鳥の腿のようで、さらに鮮やかな羽毛でつつまれ脛から下は鳥そのもの…
そう。「彼女」はヒトではなかった。
いわゆる船乗り達を襲い、ヒトを食らう「セイレーン」
その一人だった。
美しいその体も声もヒトを殺すための武器。
足や羽についた鉤爪で一体何人のヒトを引き裂いたか分からない。
そんな彼女がヒトに憧れを抱いていることを他のセイレーン達はただの病だとはき捨てる
「だって、あいつらは食べ物じゃない」
それはそうだ…
だが、彼女は一度一人の船乗りに助けられてからそう思えなくなっていた。
物思いに耽りながら彼女―――オリンピアは深いため息をついた。
今夜は満月。狩りの日。
最近は逆に狩られることも多いがマザーのためにも「餌」はとらねばならない。
「オリンピア!そんな所にいたのか!雌達はもう岩場に集まってるぜ」
緑の肌、緑の短髪の雄のセイレーンが闇夜に紛れる暗緑色の翼をはばたかせながら、オリンピアの座る崖の前を飛び回っていた。
「ホフマン…あなたには分かってるでしょう?同じ繭から生まれた私たちだから…」
オリンピアは哀しげに俯く
セイレーンは雌雄はあるが、女王蜂のように子を残す能力を持つ者はコロニーに一人だけ…。
そう。雌が唄い船を眠らせた後、雄が眠っていないヒトを殺し、引き裂く。
そして最も歌声の美しい雌が対の雄を食らい次のマザーとなり、海中の洞窟内で繭を作りコロニーを導く…
そういうしきたりだった。
奇しくも、オリンピアは最もコロニーの中では歌声の美しいセイレーンだった。
「みんな待ってるぜ!早く行こう!夜明けに商船が通るって話みたいだぜ」
「分かったわ。」
渋々ながら、羽をはばたかせコロニーの皆の待つ岩場へと向かった…
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