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涼宮ハルヒの憂鬱SS倉庫
『ハルキョンの人生ゲーム for Bridal』
5月中旬、季節的には中途半端で寒くなったり蒸し暑かったり。
そんな地球温暖化現象を体現したような気候であろうともSOS団の活動が休みになるなんてことは無い。おそらく我らが団長様が健在ならば半永久的に続くのではなかろうか。
そんなことを考えながら今日最後の授業残り10分を過ごしていたのだが、いつものように背中をシャーペンでつんつんと刺され俺は致し方なく振り向いた。
「どうした」
「今日は何の日か知ってる?」
クリスマス前夜の小学生のような顔で涼宮ハルヒは言った。
こいつがこんな良い表情を浮かべ始めるのは何かロクでもないことを考えているというシグナルである。
と言うか何時かも聞いた台詞だな。
去年の事を思い出すように俺は三秒だけ考えるフリをしてから、
「お前の誕生日か?」
「ちがうわよ」
「朝比奈さんの誕生日」
「ちがーう」
「古泉か長門の誕生日」
「ちがう、けどおしいわ」
「ちなみに俺の誕生日は――っておしい?」
「古泉くんの誕生日ではないけど言い様によっては当たりね」
意味が分からん。
古泉と一緒でお前らとの禅問答に付き合う気は無いぞ。
「少しは考えなさいよ。しょうがないわね、答えを教えてあげるわ」
「何だ」
「古泉くんが転校してきた日じゃない!」
んなもん覚えてるわけないだろうが。
「俺が覚えてるのはお前と初めて会った日くらいでだな…」
「えっ?」
「あっ、いや何でも無い。気にするな」
おいおい何でそこで頬を紅くするんだよ。
俺もつられるように紅くなってるのを感じ、慌てて話を逸らす。
「で、古泉が転校してきた日がどうした」
「え、あ、うん。何かね古泉くんが、」
『あなたたちに会えた日、と言ってはなんですが、楽しい日々を過ごさせて頂いているお礼にお二人にちょっとしたプレゼントをご用意させていただきましたので放課後を楽しみにしていてください。』
「…って朝言ってたわ。感謝するならあたしだけでいいのにね。なんでバカキョンも含まれてるのかしら」
知らんね。
しかし古泉の奴め、今度は何をするつもりなんだ。どうせ、『機関』プロデュースなんだろう。
「な、何よ」
どうやらそのことに少ない脳みそを頑張って巡らせていたためハルヒを見つめてしまっていたらしい。
「いやすまん、なんでもない」
「…ばかキョン」
バカキョンとはなんだ。
そう言おうとしたところ、教師からお声がかかった。
「まだ終わらないか?そろそろ授業を終わりたいんだが、良いか?」
好きに終わってください、お願いですから。
気付けばクラス中がこちらを見ていた。
いや、もう慣れたと言えば慣れたのだが、最近何か生暖かい目で見られていて流石に恥ずかしい。
「…エロキョン」
なんでだ。
日直の号令によって授業が終わるや否や、逃げるように俺は教室を出た。
何か微笑ましいモノを見るような目には耐えられん。
が、
「こらー待ちなさいキョーン!」
とか叫んで走って追い付いてきたハルヒによって止められた。
どうでもいいがお前のよく通る大声で俺を呼ぶのも止めて欲しい。そこら中の生徒が何事かとこっちを見るんだよ。
「全く。団長であるあたしを置いていくなんて許されないんだからね、ホントは」
しかしハルヒは、俺の細やかな反発の言葉など耳に届かないらしく、そんなことを言いながら俺の手を取って部室目指して歩き出した。
やれやれ。
そのまま引っ張られながら部室へ着くと、ハルヒはドカンと蹴るようにドアを開け、中に入る。
中には既に長門とメイド服姿の朝比奈さんがいた。3年生で今日は空き授業がある朝比奈さんは分かるが、長門、流石に早すぎるだろ。
ハルヒはずかずかと団長席へ行くと、
「みくるちゃん、あっついお茶ちょうだい」
「あ、はい、ただいま」
すぐにパタパタとお茶の用意をし始める朝比奈さん。健気すぎる。
そんな朝比奈さんを横目で見送り、相変わらず本の虫となっている長門に聞いてみる。
「よう長門」
「………」
ゆっくりと顔が上げられ、
「古泉の奴はまだ来てないのか?」
「まだ来ていない」
「そうか」
「そう」
再び本に視線を落とし、続きを読み始める。
そんないつものやり取りに何処か居心地の良さを感じながら考える。
まだ古泉は来てないのか。「やぁ、お待ちしてました」なんて、てっきり部室で待っていてるのかと思っていたのだが。
しばらくして朝比奈さんのお茶が用意出来た頃、噂をすればなんとやら、ようやく似非紳士超能力者が部室へやって来た。
「どうも、遅れて申し訳ありません。お祝いの品を届けて貰うのに少々手間取りまして」
いつもより三割増しくらいの爽やかさである。
「いいわ。あなたは副団長なんだからある程度許容範囲よ。何処かの雑用係は許されないんだけどね」
なんだその言い方は。俺がいつも遅れてるみたいではないか。それよりも届けて貰うってところにツッコめよ。どうせ新川さん辺りが駆り出されたのだろうが、今度会ったらご苦労様ですと声を大にして言いたいね。
「それで?何を用意してくれたの?古泉くん」
呆れ顔であろう俺を他所に嬉々として尋ねるハルヒ。
「今見せますよ」
そう言い一旦廊下に出て、何か包装された大きめの御中元の箱みたいな物を持って来た。
「なんだこりゃ」
いつの間にか俺の対面に座ったハルヒに気を取られながらも、思わず俺は声をもらす。
「ふふ、お二人のためのオーダーメイドなんですよ」
古泉が包装紙を丁寧にはがして、出てきた物は、
「「なっ!」」
俺とハルヒの声が重なる。
「ふぇ」
「………」
続いて朝比奈さんが可愛らしい声を上げ、長門がじっと見つめる。
「どうでしょうか?」
最後に古泉がニコニコ顔で確認する。
それは人生ゲームであった。しかし、ただの人生ゲームではない。

『私の人生ゲーム for Bridal』

最近ニュースやら何やらで良く取りあげられるのを見る、あれだ。
結婚する二人が歩んできた軌跡を反映できるオーダーメイド型の人生ゲームらしい。
………おい。
「いやぁ、通常は45日かかる物なのですが、知り合いに頼み込んで何とか一週間で作っていただきました」
知り合いじゃなくて『機関』の間違いだろうが。いや、この際そんなことはどうでもいい。
「何故俺とハルヒなんだ。おかしいだろうが。しかもこの写真この前のやつじゃねぇか!」
この前とはGW最終日の話になるんだが、話す気は無い。一切無い。ただ、何の写真かくらいは言っておこう。
「おや、何か間違ってましたか?実に良い結婚式の写真、」
「まだ結婚してねぇよ!」
そうハルヒのウェディングドレスは綺麗だった…じゃない、あれは模擬であってそれ以外の何モノでも無い。
「ああ、そうでしたね。『まだ』、でしたね」
何だその含み笑いは。
「いえ、何でもありません。本来は写真使用の許可を取らなければいけなかったのですが。サプライズの方が良いと思いまして。申し訳ありませんでした涼宮さん」
そんなことを言いながらも全然申し訳なさそうには見えない。それから俺にも謝れよ。
対してさっきから何か呆けていたハルヒは、はっとして、「あ、べ、別に構わないわよ。やっちゃったものはしょうがないわ。むしろ凄く嬉しいと言うか…」
「何だって?最後の方が小さくて聞こえなかったんだが」
「あんたには言ってないわよバカキョン!」
だから耳元で大声を出すな。
「まぁまぁ、中もどうぞご覧ください」
主犯者が適当なことを言いながらボードを取り出す。
機能的には他の種類の人生ゲームと何ら変わらないようだが、書いてあるマス目が大いに問題有りであった。
はじめの方はまだ良い。あぁ、その前に写真が物凄く恥ずかしいのでもう見えて無いことにする。序盤は俺、ハルヒの誕生から中学生までの出来事で少なめで事実のみが書かれてだけなのだが………
「…何でここから規模が変わるんだ?」
「それはあなたたちの出会い程重要なことは無いでしょう?」
『北高校に入学。キョンとハルヒ運命的な出会いをする。$100000もらう』
アホらしくて返す言葉も無い。更にその先もなんだかんだで酷い。
『ハルヒ、キョンの言葉でSOS団を結成する。$25000はらう』
『ハルヒとキョン二人で同じ夢をみる。キョンがハルヒにキスをする。$50000もらう』
『不思議探索2回目。ハルヒとキョン二人で不思議探索をする。$20000はらう』
『ハルヒ、七夕で憂鬱になる。$20000はらう』
『キョン、七夕でハルヒと出会う。$30000もらう』
…もう読み上げるの止めてくれ。なんだこの偏った回顧録は。色々おかしすぎるだろうが。
いや、もうそれに関しても何も言うまい。だが、
「この辺りから幻想が入ってるんだが?」
「すみません。夫婦の方へ送る物なのであなたたちで作成するとどうしても未来の事を書かなくてはいけなくなりまして」
そう思ったなら止めろよ!
特にこれ、
『ハルヒとキョン、2度目の七夕。キョンが告白しようやく正式に付き合い出す。$100000もらう』
なんだこの未来日記は。おい、2度目の七夕まで残り2ヶ月弱なんだが。
「そ、そうなの?キョン?」
「知るか!」
「はぁ。さっさと素直になったらどうなのよ?」
「意味が分からん!」
古泉め変なマスを作りやがって。
くだらないやり取りを切り上げ再びボードに目を落とす。
『ハルキョン、同じ大学に合格。ラブラブ。$30000もらう』
もう何もツッコまないからな、断じて何も言わないぞ。
『ハルキョン、無事に大学卒業。キョンがプロポーズしハルヒ受け入れる。$1000000もらう』
『ハルキョン、盛大な結婚式を開く。ラブラブ。$50000はらう』
『ハルキョン、二人で新婚旅行へ。旅行先は二人の秘密。$50000はらう』
『ハルヒ、キョンの子どもを妊娠する。ハルキョン大喜び。$30000はらう』
『ハルヒ、キョンの子どもを出産。双子で賑やかになる。$1000000もらう』
これ以上はもう良いだろ、俺が拒否する。『ラブラブ』って考えるの面倒くさかっただけじゃないのか?
「喜んでいただけたでしょうか?」
満面の笑みの古泉。お前、絶対面白がってるだろ。誰が喜ぶんだこんな妄想だらけのボードゲーム。そう俺が反論の意味を込めて黙っていると、
「い、いいんじゃない?中々面白いわ」
いいわけあるか。と言うか何処が面白いんだよ。
それより、おい、なんで目を合わせようとしないんだ、ハルヒ。
「そ、そんなことないわよ」
ハルヒはぷいと向いたまま目を合わせようと顔を背ける。
しかし、そうしてるうちに朝比奈さんと目が合ったらしい。朝比奈さんが両手を合わせて驚くように、
「わぁ、涼宮さん顔真っ赤ですぅ」
「み、みくるちゃん!」
「ひゃい」
成る程、顔が赤いから恥ずかしいってわけか。
「そういうあなたも顔が赤い」
な、長門!?
「な、何よ、あんたも人のこと言えないじゃない!」
うっ、まさか長門がそんなことを言うとは思ってもみなかった。墓穴を掘った気分だ。
「ちがう。気分、ではなく墓穴を…」
「ああ!もうそれ以上はいいぞ長門!」
「そう」
そう言って読書に戻る。が、部室の長机を挟んで顔を赤くする男女が残された。
「き、キョン」
「な、なんだ?」
「せ、せっかく古泉くんが用意してくれたんだから、早速皆でやるわよ!」
「はぁ!?」
「当たり前じゃない!」
いや、俺は遠慮したいんだが。こんなこっ恥ずかしいゲームやってられるか。だいたい他の皆も嫌だろ。こんな要りもしない惚れ気たっぷりの人生ゲーム。
「おや、良いではないですか。ボードゲーム好きの僕としては…」
うるさいお前は黙ってろ。
すると、やれやれとでも言いたそうに肩を竦める古泉。俺が言いたいっての。
「あ、あたしもやってみたいです」
「わたしも」
朝比奈さんが手を上げ、長門が本から目を上げる。
成る程な。味方何ていないと、分かってはいたが、分かっては…
「ほら!皆やりたいって言ってるじゃない!あんた一人だけやらないなんて許されないんだからね!」
「はぁ…」
しょうがない、やってやるか。
目の前にはいつの間にか俺の好きな百ワットの笑みになったハルヒがいた。
全く、そんな笑顔で言われたら断れないだろ。
そう言うわけで、SOS団全員参加の俺とハルヒの人生ゲーム大会が始まった。
ただし皆が皆、甘ったるい文字が踊るマスに止まるのでとりあえずカオスだったことは言うまでもない。
そして、誰が勝ったかと言えば勿論ハルヒである。次が俺。そして長門、朝比奈さんと続き、やはり最後は古泉であった。本当に弱いんだな古泉。
しかし、これは人生ゲームにしちゃ甘ったる過ぎだ。それにこんな『幸せ』なマスだらけの人生なんかあり得んだろ。
とはいっても、このボードの通りじゃなくても、だ。こんな人生を送れたらそれはすごい『幸せ』な人生だろう。
そんなことを考えるには良い機会になったかもしれない。そこだけは古泉に感謝してやっても良い。
それにもし、もしもだ。もしもだぞ?
この人生ゲームの通りハルヒと結婚するようなことがあれば、その時、同じ物を作ろうかと思うのだ。そしてどれだけ違ったのか比べてみたいじゃないか。それもまた一興、だろ?
これだけ『幸せ』なマスを作ってやれるか分からないが、なるようになるさ。人生ってそんなもんだろ。
だがこの時の俺は、まさかこの人生ゲームの通り、涼宮ハルヒを妻とし『幸せ』な家庭を築くことになるとは夢にも思っていなかったのだ。
全く―――


―――やれやれだ。


『ハルキョンの人生ゲーム for Bridal』


しばらく後、2回戦目をしている時、ぼんやりボードを眺めていてある不思議なマスを見つけた。
「なぁ古泉」
「どうしました?」
「このマスはなんだ?」
「どれですか?」
「これだ」
「ああ、これですか。何ですかね…」
おい。
そこにはこう書いてあった。

『50000Hitおめでとうございます!駄作なSSを送る。ありがとうございました。』

「あっ、あたしとキョン、また結婚したわ」

(おわり)


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