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Novel
それは、星が大地を望んだ日。Z
意識がゆらゆらと虚空を漂う。
闇が母親の胎内のようにあたたかく、やわらかく包み込む。
どくりどくりと規則正しく波打つ鼓動が全身に広がる。

あぁ、ぼくはまだ生きているのか。
死ぬことすらもできなかったのか。
ならばせめてこのまま眠り続けることはできないだろうか。

そうすれば、きっと死んでいるのと変わらない。


夢の中でぼくは一粒の宝石だった。

誰も彼もがぼくをモノとして扱う。
大切な宝を傷つけないよう細心の注意を払って。

すべてが薄い膜の向こうにあるように見えた。
布越しに触れられる感触は曖昧で、向けられぬ感情の渦はひどく遠い。

そんなとき、彼が現れた。
真っすぐに向けられる視線は、悲しみと怒りとやるせなさに澱みながらも、ひどく煌めいていた。

はじめてぼくだけに向けられた感情。
それは決して明るい想いではなかったけれども、そのとき世界は確かに、鮮やかな色を持ち輝いて見えたんだ。

彼を一目見て、きっと優しい人だと思った。
笑ったら素敵だろうと思った。
なのに彼はぼくを見つめると、泣きそうに顔をゆがめ、足早に立ち去ろうとした。

悲しい顔をしてほしくなくて、気づいたら指をつかんでいた。

行かないで。
傍にいて。

ぼくを、抱きしめて。


耳を抉る嗚咽。


そう、彼もこんな風に泣き出した。
堪えていたものが堰をきって流れ出すように。

また、泣いているの。
泣かないで。
ぼくは、あなたの笑顔が好きなんだ。
自分のことなんてどうでもいいくらいに。

たとえばあのとき。

あなたが持っていた短剣でぼくの鼓動を止めたとしても。
それであなたの心が晴れるなら、ぼくは喜んでそれを受け入れただろう。

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