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Novel
白鴉の啼く夜 W
「5年前って言うと確か将軍がクーデターを起こした年ね」

「そう。それのせいであやふやになってるけど。その事件直後に生まれたばかりの赤ん坊が一人行方不明になってる。そして現在も捜索中」

血が騒ぐ。
有翼種に借りを作れるなどというチャンスはめったにない。
ましてやその頂点に立とうかという子供を自分のものにできる機会など。
自分たちの力が及ぼす影響を知っているから彼らは滅多に隙を見せないのだ。

まぁ何はともあれ会ってみないことにはね。

「その子、買い戻せる?」

「難しいわね。いったん買い主の下に届いちゃうと。買い戻すにしてもかなりの時間が必要よ」

そんなことよく知っている。
何年この街に居たと思っているんだ。

「要はお偉いさんなわけね」

「貴方のとこの政務官よ」

にやりと笑みを浮かべる。
今日は付いているのかも知れない。

「好都合だ。ちょうど更迭の理由が欲しかったところだからな」

まさに一石二鳥。
国庫から金をくすねたり、スパイを手引きしたりと罪状に事欠かないのに、なかなか決定的な証拠をつかませてくれないので正直困っていたのだ。
ただの少年を買うくらいでは罪としては弱いが、有翼種なら充分だ。
向こうもまさか彼が有翼種である等と思っていないから、油断している。

「悪どい人。可哀想な小鳥を助けたいなどとは思ってもみないのね」

サリタが目を眇める。

「褒め言葉だね」

俺にとっては国こそが全てだ。
そう育てられてきた人間にそれ以外の価値観を望まれても困る。

「直接乗り込む。手引きしてくれ」

「直接って・・・向こうは貴方の顔知っているでしょうに」

サリタが慌てて止める。
俺を危険な目に合わせたくないというのが本音だろう。
だけど、もう遅い。
もう俺は決めてしまったから。

「は、お飾りの王子の顔なんか奴がじっくり見てるもんか。ちょっと変装すれば、ばれねぇよ」

それもまた事実。

「いいからさっさと手配しろ。これは命令だ」

命令の二文字には彼女は逆らえない。
仕方がないだろう?
足が疼いて仕方がないんだ。

「御意に。殿下」

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