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恋をした 【影山】

はらはらと花弁が舞い、既に地面を埋めているピンク色の花弁の上へと着地する。
私はその花弁の持ち主であった桜の木を見上げると、大きくすうっと息を吸い込んだ。ふわりと微かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。
桜が舞い散る季節が、今年もやってきた。
辛かった受験とも別れを告げ、冬には想像できなかったほど清々しい気分で私は春を迎えていた。
同じ中学の友達は誰一人いないこの高校で、新しい生活が始まると思うと胸が高鳴った。
というのも、別に中学校生活に不満があった訳ではない。
ようは高校デビューがしたいのだ。

この高校を選んだ理由はただ一つ。
『女子の制服が可愛かったから』
中学の頃の制服は、いかにも昭和な感じが漂うスカートに丸襟ブラウスという悲惨なものだったため、制服への憧れが人一倍強い。
今日は可愛い制服を着て、髪の毛も一週間前から念入りに手入れしてきたためバッチリだ。
一応身だしなみをチェックするべく、ケータイを取り出した。


「やば!」


入学式の開始時刻が迫っていた。
高校生感に浸って桜なんて見上げてぼーっとしてなきゃ良かった!
私は真新しいスカートを翻して駆け出した。







なんとか入学式にはギリギリ間に合い、今は教室の中。
担任の先生の挨拶と最初のHRが終わり教室には安心感が漂っていた。
周りには、気の合う仲間を探して片っ端から話掛けるクラスメイト達でごった返している。
私もその集いの輪に入ろうかと思ったが、眠気が思考を支配する。
朝から全力疾走で登校してくるんじゃなかった。
入学式早々私は机に突っ伏して目を閉じる。
クラスメイト達の話し声を聞きながら、段々と意識が遠退くのを感じた。




「……あの」

低い声が耳元で聞こえて、反射的に身体がビクッと起き上がる。

「へ!?はっはい!?」

先生だろうか。入学早々だらしのない奴だと思われてしまったのか。

上手く回らない思考回路をフル回転させ、眠い目を擦って顔を上げる。
そこには、つり目で背の高い黒髪の男の子がいた。


「いや…みんな帰ったから」

え!?と辺りを見渡すと確かに、夕日が射し込む教室の中には私とつり目君しかいなかった。
先生じゃなくて良かった。
いつまで経っても起きない私を見兼ねてわざわざ声を掛けてくれたのか。


「あ、ありがとう」


そう言うと、つり目君はきょとんとした顔をして少しこっちを見た後、目線を下に逸らしていや、と言った。



あ、なんだろう。この感じ。


目線を上げようとしないつり目君の顔を見ながら、


………かっこいい。

なんて呑気に思った。


「じゃ」

つり目君はそう言うと鞄を持ち上げてさっと今日を出て行ってしまった。
その長い脚の動きが綺麗で、思わず見とれてしまった。



………挨拶し忘れた。

まだ胸がドキドキ鳴っている。いきなり起こされたから、だけじゃない。この胸のドキドキは。

「………かっこよかったなあ……」
誰もいなくなった教室でポツリと呟いてみる。

名前は、なんて言うんだろう。
部活はなにをしているんだろう。

明日また会えるのが楽しみだな。

そう思いながら、私も教室を出た。






名前も知らないあなたに恋をしました。

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あきゅろす。
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