愛しい人 R18
気味が悪い……。

退庁の時刻となっても仕事が一段落付かず、一人居残り黙々と書類に目を通していた山田の元に、珍しく山縣が現れたのはほんの少し前の事であった。
山縣は、来るなり「時間はあるか?」と尋ね、山田は有無も言わさぬ口調で「無い!」と返す。
「そうか…」とポツリと呟き、山縣はそのまま応接用の椅子に腰掛け、黙り込んでいる。
最初は放置していた山田であったが、何をするでもなく居座る山縣が気になり、ふと視線を向けた。
山縣と目が合い、慌てて書類に視線を落とす。

(ずっと見ちょったんか…?!)

見られていた事への気恥ずかしさと、山縣の意図が読めない苛立ちに、仕事がはかどらない。
文章に目を走らせるが、内容が全く頭に入って来なかった。
まだ見られているかもしれない、と思うと、不用意に顔を上げる事も出来ない。

(何がしたいんじゃ、あいつはっ?!)

いっそ山縣の用事をさっさと済ませてしまった方が、仕事がはかどるかもしれない…そう思い、再び山縣の方へと視線を上げようとした。

「さっきから進んじょらん様にあるが…」

「うぁっ!!」

何時の間にか直ぐ隣に立ち、書類を覗き込む山縣の声が耳元に響く。
驚き思わず大きな声を上げてしまった。

「ワシの気配にも気付かないとは…鈍ったの…」

「やかましぃ!そんな所にノッソリ立つな!!」

呆れた様に呟く山縣に、つい憎まれ口を叩く。
半分は負け惜しみになる。

「集中出来ん様じゃからの、一旦休憩したらどうじゃ?」

言うなり山縣は、机の上の書類を片付けてしまう。

「あ、何勝手な事…」

山縣の行動に非難の声を上げ、制止しようと手を伸ばす。
その手をすかさず山縣が掴んだ。
ぎくりと山田の躯が強張る。

「根を詰めるだけでは、仕事ははかどらんじゃろ」

ゆっくりと低い声音が鼓膜をくすぐる。
山縣の掌が山田の手の甲に重なり、細く長い指が指間を埋めた。
反対の手が、山田の薄い肩に当てられなぞる仕草に、僅かに躯が震える。

「わ、わかった!休憩すればええんじゃろ!それで、お前の話を聞けば良いんじゃろうが!」

半ばヤケクソになりながら仕事を中断する決意をする。
どの道山縣が居る間は仕事どころではない。
不本意そうに頬を膨れさせる山田に、山縣は満足気に目を細めると、重ねた手をするりと解いた。
そして、山田の肩から力が抜けたのを目の端に捉え、山縣はおもむろに山田の脇に腕を差し込んで抱え上げ、今まで山田が座っていた椅子に自ら腰掛けると、山田を膝の上に横向に乗せた。
あまりに突飛な行動に抵抗するどころか、呆気にとられ、山田はポカンとした表情で固まってしまう。
恐る恐る瞳だけを動かして横を見ると、山縣のしてやったりな微笑が映る。
山縣の指が頬を撫で、同時に顔が近付いて来た。
ハッと我に返り、山田は今更ながら躯を捩り、抵抗を示す。

「なっ、何で…っ、何をするんじゃ、山縣っ!?」

怒っているのか困っているのか…、恐らくは両方であろうが、戸惑う様に声を上げる山田に、山縣は何も応えずに山田の首筋に唇を落とした。
くすぐったさに肩をすぼめ、山縣を引き剥がそうと膝の上でジタバタと暴れる。

「や、止めんかっ!何でこねぇな所でやりたがるんじゃ、お前は!?」

仄かに色付く肌を味わう様に、熱い舌が這う。
同時に、掌が下肢をなぞり、徐々に山田の内股に差し込まれて中心を柔らかく刺激した。
ゾクリと甘い痺れが背筋を走る。
山縣の指先が器用にタイを外し、襟元を寛げていくのを山田の手が遮った。

「止めろと、言うちょるじゃろ!」

ほんの少し煽っただけで、山田の頬は紅潮し、色香を放つ。
山田の言葉が聞こえていない筈はないが、山縣の動きは止まらない。
首筋を這う舌が執拗に肌を濡らし、きつく吸い上げる。
緩やかであった中心を包み込む掌が、強く擦り上げながら押し当てられ、山田の躯が痙攣を起こしたようにビクビクと震えた。

「や、山縣っ、いや…ぁ」

抵抗の中にも甘い吐息が混じり、確実に熱が上昇していくのがわかる。
山縣の手慣れた動きに次第に流され、力む躯が次第に解けてゆく。
抵抗が弱まったのを見計らい、山縣の指がまたシャツの釦を外しにかかる。
山田は諦めたのか、ピクリと肩を震わせるだけで、遮る様子はなかった。
はだけられ露わになった桃色に染まる肌を、山縣の掌がなぞる。
滑らかな肌の上に、唯一尖る赤い実に辿り着き、指の腹で転がすと、山田の躯は一際山縣の膝の上で跳ね上がった。

「あ、んっぁ、ぅ…は」

甘い吐息が漏れ、山田はもじもじと腰をくねらせて、中心にあてがわれた山縣の手に押し付けるように足を閉じる。
既に高ぶり立ち上がった山田の熱が布越しに伝わり、山縣は小さく笑みを零した。

「今日は焦らすのは無しじゃ…どうして欲しい?」

耳元で山縣の甘い囁きがする。
いつもの、情事の最中ですら冷たく感じる響きとは違う山縣の声音に、山田は違和感を感じた。

「……どういう…意味じゃ?」

チラリと山縣へと上目遣いに視線を向け、乱れた呼吸のまま途切れ途切れに問う。

「どういう意味もあるか。どうして欲しいのか訊いちょる」

言うなり、山縣の指が胸の実を摘み、強弱を付けて弄る。

「ぅあ、ぁ…やっあ」

途端に上がる山田の嬌声に、山縣は優し気ともとれる笑みを浮かべ

「此処を弄って欲しいのか?」

そして、山田の高ぶりに当てた掌に力を込め扱きながら

「それとも、こっちを弄って欲しいのか…」

「あっ、はぁ…んっあ」

山田の躯が小さく震え、喘ぎが言葉を紡ぐのを遮る。

「山田、聞いちょるんか?」

山縣の不思議と落ち着いた声がかんに障る。

「き、聞こえちょる!ぁ、も……んっ、早くっ」

「早く?」

先を促しながらも、山縣の手の動きは止まらない。
焦らさないのではなかったのか?!という叫びを胸中に零し、山田は半ばヤケクソに山縣の首に手を回し、唇に噛み付くように口付けを落とした。
自ら舌を入れ、貪るように舌を絡ませて吸い上げる。
山縣もそれに応えるように、山田の口付けを受け入れた。

「ん…んぅ…」

鼻から抜けるように喘ぎが漏れ、二人の唾液が絡み合い水音が響く。
どちらからともなく唇が離れ、二人の間を熱い吐息が埋める。
ごく間近にある山田の瞳が、艶を含んで山縣を催促しているにも関わらず、山縣は動こうとはしない。
先に痺れを切らしたのは山田の方であった。
山縣の肩に額を乗せ、小さくくぐもった声を漏らす。

「……早く…もぅ、達きたい」

今にも泣き出しそうな細い声と共に、山縣の手がズボンの前をくつろげていく。
山縣の肩に額を乗せたまま、山田はその動きを黙って眺めた。
下衣が下ろされる時にだけ自ら腰を浮かし、スルリと落ちる布の、肌が擦れる感触に躯が震える。
山縣の手が直に触れ、背筋に甘い痺れが走った。
先端を指で擦り、包み込む掌が容赦なく熱を追い上げる。

「はっぁ…ん、あっ…んやぁ」

先端から溢れた蜜が、山縣の手を濡らし、粘着質な水音をたてながら擦り上げる。
そそり立つ山田自身は限界を訴え、無意識に腰が浮く。

「や、ぁ…ぅん、は…も…やまが、た」

肩に当てた額を殊更に押し当て、縋るように首に回した腕に力が籠もる。

「達きたいなら達けば良いじゃろ」

我慢する事はない、言外にそう、含んだ山縣の声で、熱がまた上昇する。
山田はいやいやをするように頭を振り、身を捩らせた。
そして、喘ぎとは違うか細い声を漏らすが、山縣は聞き取る事が出来ずに首を傾げる。

「何じゃ?良く聞こえん」

俯く山田の顔を覗き込み、子供に尋ねるような優しい声音で問い掛ける。
山田は小さく身動ぎし、躊躇いがちに再び口を開く。

「…こ…のままじゃ…いやじゃ…」

辛うじてそれだけを口にし、ゆるゆると山縣の腕に回された腕が片方解けた。
その手を、山縣の下肢へと滑らせ、山縣の息づく熱に指が触れる。
布越しに、確かに猛るその熱が欲しい。
山田にはそれが精一杯の懇願であった。
全身を火を噴くように真っ赤に染めた山田を見やり、山縣は僅かに口の端を上げると、山田の耳元に囁く。

「これを、どうして欲しい?」

山田の肩がピクリと揺れた。
この期に及んで…屈辱感にも似た感情が湧き上がる。
しかしこの男は、無駄に気が長い。
自分が要求を口にするまでは、決して動こうとはしないであろう。
山田は羞恥に躯を震わせ、漸く聞き取れる程の声を吐き出した。

「っ…入れて…欲し、い…」

「何処に?」

すかさず山縣の言葉が飛ぶ。
山田の肩が、俄かに身動ぎ小さく竦む。
両瞼からポタリと滴が落ち、山縣の服にシミを作った。
数度息を整え、震える唇を漸く動かす。

「……ぅ…しろ…」

溜め息めいた小さな声に応えるように、山田の足の付け根、奥まりを山縣の指が掠める。
先程まで弄っていた山田自身の滴りで濡れた指先を、きつい入り口へと侵入させていく。
不意に襲う鈍い痛みに、山田の口からくぐもった呻きが漏れた。
爪先が固い入り口をこじ開け、ゆっくりと飲み込む感覚に、山田の腰が仰け反る。
漸く、指を一つ受け入れたところで、中を押し広げるように動き出した。

「っあ、ぅん…は…ぁ」

苦痛と快楽の波が山田を襲う。
大してほぐれてもいないのに、山縣は指を増やして更に熱を煽った。
ポタポタと頬を涙が伝い落ちのを、山縣の熱い舌が舐めとる。
抵抗が緩やかになったのを見計らい、指が引き抜かれたかと思うと、山縣は自らのズボンを解き、自身を取り出す。
そそり立つ欲望を、山田の後ろ口に当てがうと、一気に中に穿った。

「あぁっ、や、んっぁあ」

耐えきれず上がる嬌声と、背中が弓なりに反り返り、胸を山縣へと突き出す格好となる。
山縣は胸の赤く熟れた実に舌を這わせ、山田に快楽を与えた。

「ぅっん、あ…はぅ…ん」

途端に、嬌声の中に甘い喘ぎが混ざり、下腹部を圧迫する熱がゆるゆると動き始める。
中を擦り上げる刺激と、胸の突起を転がす舌の動きとが相俟って、背筋を甘い痺れが這い上がる。

「あ、あ…んっぁ、や…も、ぅ…」

限界に近い状態で焦らされていた山田には、微細な刺激でも長く保ちそうに無い。
そそり立つ先端からは、透明な蜜が止め処なく溢れ、今にも達しようとしている。
山縣は、腰の動きを速めて奥深くを突き上げ穿った。
山田の躯がガクガクと震え、呂律の回らなくなった口から喘ぎが漏れる。

「やっやま、がた…ぁっん、あっ…や、ぁ」

山田の腰が、中にある熱を締め付けるように狭まり、山縣の欲望を刺激する。
白い液体が山縣の腹部を汚す。
喘ぎながら呼吸を繰り返し、小さき震える山田の背中を、暖かな腕が包み込み、胸の中へと誘い込む。
力の入らない躯を、されるがままに預け、山田は昂然とした表情で、中に放たれた熱を感じた。

気怠い躯を山縣に預けたまま、暫し呼吸を整える。
額に滲む汗を、山縣の指が拭った。
いつになく労るような仕草に、山田は重たい頭を上げて山縣を見上げる。
気遣うような眼差しを向ける山縣の視線とぶつかり、気持ちが落ち着かない。
居心地悪く身動ぎする山田に、山縣は小さく笑い

「今日だけは…な」

意味がわからない、と顔で示す山田に、山縣はそっと頬に掌を当て、啄むような口付けを落とした。
咄嗟に瞼を閉じ、吐息の触れる感触に胸の鼓動が俄かに高まる。

「お前が居てくれて良かったと思うちょる」

薄く目を開けると、山縣の顔が目の前にあった。
照れ臭くて視線を彷徨わせると、山縣の顔が近付き、耳元に囁き掛ける。
山縣の唇が「おめでとう、誕生日」と呟いた。




【あとがき】
山田お誕生日ーおめっ!
だったんですが、メッチャ遅くなってしまいましたぁー(;´д⊂)
ゴメンよ、山田…。

チョットだけ優し気な山縣を目指してみましたが、結局はアレコレ指示してるっていう…まぁ、山縣なんで(笑)
ていうか、優し気な山縣が真剣キモイのでもぅ二度と書けない気がします…(=_=;)

オチがなんだかなぁー…なんですが、それはもぅ…アタシなんで……スンマセン(>_<。)







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あきゅろす。
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