第一章(7)
どのくらいそうしていたのか…

江藤の涙が漸く止り、気持ちが落ち着いてくると、今度はただ気恥ずかしさばかりが湧き上がって来る。
奥はまだ江藤の横に膝をついた格好でしゃがみ込み、頭を撫でている。
視線はじっと江藤に向けられていた。
それが気配でわかり、江藤は顔を上げる事も出来ず、ただ俯いて身を固くするほかない。
奥はそんな江藤に気付いてか、ずっと黙って撫でていた江藤の頭から手を離し、ゆったりとした動作で立ち上がった。

「あ…」

弾かれた様に江藤は顔を上げ、奥を見る。
すると、穏やかに微笑を浮かべる奥と目が合う。
咄嗟に目を逸らし、また俯いてしまった。
かっと、頬に熱が集まるのがわかる。耳まで熱い。

咄嗟の反応とはいえ、目を逸らしてしまった事を「しまった…」と、思うが既に遅かった。
気まずくなって、江藤はやけくそに声を上げ、

「あ、あのっ、すみませ…いえ、申し訳ありませんでしたっ!」

素早く立ち上がり、奥に向かって勢い良く頭を下げた。

が、途端に頭がクラクラとする。
目の前がうっすらと暗くなり、目を開けている感覚はあるのに、何も見えなくなった。

江藤は意識が遠退くのを感じながら、何か、暖かい温もりに包まれ、奥が叫んでいる声を聞いた。

「おい、副官っ!高嶋!来てくれ!」

バタンという大きな音で、扉が開いたのだとわかる。が、その後からの記憶は、ぷつりと切れた…。

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あきゅろす。
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