捜索一日目(2)


なるほど。
奥はわざわざ自分が呼ばれた理由を理解した。
山田を探索するには山田の顔を実際知る者を集めるに限る。

「お前山田の顔覚えとるやろ?」

小川の問いかけに奥は数年前、顔を合わせた山田に思いを馳せながら

「忘れろっち云われてもあの顔は忘れられんっちゃ」

西南の役の際、死ぬ気で駆け抜けた後に合流した先には、美少年といっても過言ではない人物が待っていた。

大きな二重の瞳、スッと通った鼻筋、ぷっくりとした唇、戦時中である為多少のみすぼらしさは否めないものの、それでもあきらかに周囲とは違う雰囲気をまとった人物であった。

「美少年っちゃーあぁいう人の事いうんやろな…」

ボソリと呟く奥に

「美少年っち…30過ぎとる御仁やろが…」

すかさず小川の突っ込みが入る。
奥は苦笑いして

「又次、会うた事ないんか?」

西南の役の際、小川も山田と顔を合わせる機会はあった筈である。

「話した事はないっちゃ。遠くからチラッと見ただけやな」

2人は歩きながら取り留めの無い話をし、とある料亭へと辿り着いた。

小川はさっさと暖簾を潜るが奥は躊躇った。

付いて来ない奥に気付き小川が戻って来る。

「早よ来んか」

急かされるが奥は動かず、うっすらと不機嫌さを纏い

「司令官にご挨拶するのが先やろ」

あくまで真面目な奥に小川はニヤリとし

「変わらんなお前は。心配せんでも先に来とるっちゃ」

大至急、と人を呼びつけた割には呑気である。

「呑んどるんか?」

怪訝な顔をする奥を余所に小川は

「呑んでもおるが住んどるけな」

ますます訳がわからない。

「あぁ、言い忘れとったけど此処が作戦本部やけ」

何て事ない風に言う小川。
奥は耳を疑った。

「…此処が…?」

冷静になってみようと建物を見上げる。

残念ながら料亭にしか見えない。

「目が悪いんかな俺…」

自分の目を疑うしかなかった。

「何か?もぅ老眼か?」

あくまで呑気な小川であった。

店先からなかなか進まない2人に不意に声が掛けられる。

「何時まで漫才してるんだ…」

視線を向けると店の暖簾をまくって顔だけ出している人物と目が合った。
声の主は山川である。

見知った人物の登場に奥は驚いて目をみはる。

「山川さん…」

山川は奥を見て僅かに微笑み

「久しいな、奥」

と親しみを込めて名を呼んだ。

「俺が迎えに行った方が良かったな。どうも大阪鎮台の者は鈍臭くて困る」

相変わらずの毒舌に思わず笑みが零れる。
和やかな2人の間に小川が割って入った。

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