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地平が織り成す夢物語
運命の歯車(紫狼)



キラリと光った切先が、真っ直ぐに向けられる。


紫の瞳が、私を見つめていた。



「……私を、どうするの…?」


「怯えるな。その縄を解いてやるだけだ。」



彼は言葉の通りに私の手首の縄に刃を向けると、それを一閃した。



ぱらりと縄が地面に落ちる。



「さあ、何処にでもいくがいい。お前の自由だ。」


「…自由……」



気付けばずっと望んできたものを簡単に手にいれた自分がいた。

自由。
唯それが欲しくて、今まであがいてきたのに。



いざ与えられてしまったら、どうしたらいいか解らなくなる。


「………」


「…どうした?」


「………貴方は、どうして私を助けてくれたの?」


「……残酷な女神の為すがままにはさせたくない。それだけだ。」




彼女の所為で私はこうして奴隷となり、辛い思いをしてきた。
神には抗えない、そう思ってずっと生きてきた。


けれどその境遇から救い出してくれた彼に対して、私はどうすればいい?




「…あの、私………貴方に何もしてあげられない…」


「別に気にするな。見返りを求めてしたことじゃない。」


「でも…」




見上げていた視線を落として口ごもってしまう。

奴隷だった私に出来ることなんてたかが知れてる。

でも、たとえ彼が望まなくてもずっと欲しかった自由を私は手に入れたのだ。

たかが知れていようが何だろうが礼の一つもしないなんてことは人間としてしたくない。



「……なにか、させてください」


「………」



彼は腕を組んだまま、黙り込んでしまった。


困らせてしまっただろうか?



けれど私がそんなことを考えているうちに、彼が私の顔を覗き込んでいた。




「…もしも、お前に戦場に赴く勇気があるのであれば、私について来るがいい。」


「…え?」


「私は愛する者の仇を討つ為に、アルカディアと戦う。お前が私の為に何かしたいというのであれば、戦場で私に手を貸してくれ。」




紫の瞳が、私をみつめる。

まるで私の勇気を測るように。



私はしばらく押し黙っていたが、心はもう既に決まっていた。

ゆっくりと唇を開き、決意を口にする。



「私は貴方と共に参ります。」


「…解った。」



彼はうなづくと、組んでいた腕を私に差し出した。

その手を取り、共に立ち上がる。



「…お前、名前は?」


「名前といいます」


「名前か。私はエレウセウス…いや、アメティストスだ。」






こうして、運命の歯車は再び廻り始めた



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