地平が織り成す夢物語
密やかな欲望(賢者)
壁に背中を押し付けられて、目の前にはなんとも言えない胡散臭さを含んだ笑み。
肩を掴む力が弱くなることは無くて、長いことずっとこうしている。
…自分ではどんな顔してるか分からないけどきっと怒っているだろう。
「……サヴァン…」
「ん?どうしたのかな?」
「……それはこっちの台詞よ」
キッと睨んでやれば、サヴァンはわざとらしく困った顔をしてみせた。
「…やれやれ。困ったmademoiselleだねぇ。」
「……っ!?」
突然、肩を押さえ付けていた力が緩んで、ぐい、と引き寄せられる。
驚いている内にサヴァンの腕が背中に回って、頬にはスーツの感触が。
「…サ、ヴァン……?」
「…可愛いげのない顔をして。」
頭上から降り注ぐ特徴のある声が、段々と降下して来てついに耳元へ。
腕はしっかりと私を抱いたまま。
背中を曲げて囁きかけてくる彼に、思わず息が詰まった。
「…そんなに私に虐められたいかね?」
「…!?」
サヴァンの声が今までと違うものを孕んだ。
例えていえば、それは黒い色。
「…、や、だ…サヴァン」
「…君の願いは、どうやら聞き届けられないようだ。」
くつくつと笑う声が、私の心に恐怖を注ぎ込む。
雪崩込んだそれは密やかに始まった彼の名の無い欲望を嫌でも受け止めさせる。
「……さぁ、往こうか……名前…」
密やかな欲望
10*01*07
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