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【SS・拍手お礼SS】
<慶次→まつ>誰も知らないxxx

好きになるひとは、いつだって大切なひとの大切なひとだった。


その頃は、まだ俺に親友と呼べるやつが居て、愛するひとが隣で笑っていた。
今思えば、この頃が一番幸せだったのかもしれない。


「あーあ、退屈だなあ。秀吉は構ってくれないし…。」

俺は昼下がりの平和な町をぶらぶらとうろついていた。

「久し振りに利んとこでも帰るかなあ。もう一年も帰ってないからなあ…。」


「…なしてくださりませ!」

「なんだ?」
路地で女が四人の男に囲まれて声を荒げている。

「上玉じゃねえか。ちょいとオレらに付き合ってくれよう。」
「先を急いでいるのです。そこを通してくださりませ。」

おおっと、これは見逃せないね。

「大の男が寄って集ってさぁ。とても色男のする事じゃあないね。」
「ああ!?何だテメェ。」
「引っ込んでろ。」

「喧嘩なら大歓迎だ。」
男達を軽く相手にすると、あっさりと引き上げていった。
「なあんだもう終わりかい?」

「そこのお方…」
「ああ、礼ならいいって。」
とヘラヘラしていると女からは思わぬ言葉が返ってきた。
「このような人通りの多い場所で喧嘩などいけませぬ。穏便に事を済ませようともせず何でも力で解決しようとするなどもっての外!」

ええー!?助けたのにお説教!?

「それと…」
彼女の声の調子が変わった。

「助けて頂いて有難うござりまする。」
そう言って丁寧に礼をし微笑む彼女は、確かにとても美しかった。

似てる―――…


「なあ重そうだねその荷物。何処まで行くの?良かったら手伝ってもいいかい?」
「はぁ…。結局あなたもあの男達と一緒ではありませぬか。」
「そんな事言わない言わない。一期一会、こんな別嬪さんに出会えたのも何かの縁だしさ。」
「まあ、口がお上手です事。」

「俺は前田慶次ってんだ。あんたの名前を聞いてもいいかい?」

「前田…慶次…。」

彼女は不思議そうな顔をした。

「まつと申しまする。折角ですから、道中お願い致しましょうか。」

俺はおまつさんの荷物を半分受け持ち、彼女の後をついていった。


「おまつさん、俺の好きだった人に少し似てる。」

「そんな事言って口説いても無駄ですよ。」

「本当だって。品があるけど意思が強いところとか…笑顔が綺麗なところとか…。」

「まだ、その方を想っているのですか。」

「…そりゃー、今も、好きだけど…あのひとは、大事な友達のものだから。」

「慶次殿…。」

「けどいいんだ、笑ってる二人を見るのが好きだから。」

俺は会ったばかりの女性に、どうしてべらべらと喋っているんだろう。

「あなたは、優しいのですね。…良く似てまする。」

おまつさんは、くすくすと笑っていた。
…誰に似てるって?

「けれど、優しすぎるのも考えものですよ。あなた自身の幸せは、ちゃんと掴めておりますか?」

え…?

「人の幸せばかり願っていては、あなた自身の幸せを逃してしまいますよ。」

彼女は俺の頭を撫でた。

その手が、言葉がすごくあったかくて、懐かしいような気がして。
何だかくすぐったいな。

こんな嬉しい気持ちにまた出会えるなんて。

「なら…そろそろ幸せ、掴もうかな。」


新しい恋、できそうな予感がして―――…



町を出て、おまつさんに案内され暫く並んで歩いていた。
ふと周りを見渡すと―――あれ?この景色…

「そうだ、俺ん家の方面だ。おまつさん、もしかしてご近所さんかい?」

「すぐにわかりますよ。」

と、たどり着いた先は…
俺の家!?

「まつー!待っていたぞー!」

門から出てきた、やたらはしゃいでいる男は一年振りに見る利だった。

「犬千代さま、ただ今戻りましてござりまする。」

戻りまして、…って?

「慶次?慶次じゃないか!久し振りだなあ。どうしてまつと一緒なんだ?」

「おまつさん…?」
彼女は俺に向き直った。

「改めまして慶次殿。いえ、慶次。私は前田利家が妻、まつにござりまする。よしなに。」

つ、ま……。

俺が一年留守にしている間に、叔父の利家は可愛い奥さんを貰っていたという訳だ。

なーんだ。
俺はただ、引きつりながら笑うしかなかった。

利のものじゃ、手は出せないなあ。


それに今目の前の二人が、とても幸せそうな顔をしているから。


恋は遠いなあ。
でもやっぱりいいや、今は。
俺の一番近くに居る人が幸せであったなら、それが俺自身の幸せで、さ。


それは誰も知らない、ほんの一瞬の恋だった。




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