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【SS・拍手お礼SS】
<幸村→佐助>いつの日かお前に (死ネタ・流血注意)

夢を見た。

それはもう遠い青空の下

伝えられなかった言葉を抱いて、俺はお前にさよならをした。




辺りにたちこめる火薬と死の臭い。

「あと一歩・・・あと一歩で首を獲れるというのに・・・!」
既に俺には二本の槍でやっと――汗と埃まみれの血腥い身体を支えるだけの力しか残されていなかった。
四肢が全く動いてくれないのは先程無数の銃弾を浴びたせいである。
「まだ・・・まだだ、負ける訳にはいかぬ・・・のに・・・。」

「――危ねえ!!」

高い金属音が森の中に響き渡る。
振り返れば、見慣れた大きな手裏剣に弾き返された矢が地面に落ちていた。

「佐助・・・。」

「逃がすか・・・っ。」
佐助の放った手裏剣は相手を捉えたらしく、茂みの奥から潰れた悲鳴が聞こえた。

「真田の大将、無茶するな。一旦引くんだ。」
佐助は険しい表情のまま俺の背に腕を回し担ぎ上げようとした。

その時佐助の腹部にぬるっとした感触がある事に気づく。
「佐助・・・お前、腹を・・・!」
「俺様はいいから・・・。」
「良くはない・・・!お前、顔が真っ白ではないか。」

佐助は何も答えずにただ歪んだ笑顔を見せた。


二人は近くの神社に身を寄せ松の木の下に並んでもたれ掛かった。

「少し・・・休憩。流石に・・・ちょいと無理したかな。ああ・・・走馬灯っぽいのが見えてきた。なーんて・・・。」
「む・・・?縁起でもない事を言うな!」
「・・・でもほんと、今ね、頭の中あんたと出会ってから今までの事が凄い勢いで流れてる。
何でかね。他にも楽しい事だって沢山あった筈なのに、いざ思い出すのはあんたとの日々ばっかりなんだよ・・・。」
「出逢った頃は、まことお前は無愛想な奴だったな。」
「うん。俺様戦忍なのに、まさか年下のちびっ子主のお守りする破目になるとはね。」

「最初は、微塵も笑ってくれなくて。」
「どこ行くにもくっ付いてきて、鬱陶しいとさえ思ってて。」

「だけど、佐助はいつも傍に居てくれた。」
「主があんただったから、俺は救われていた。」

「佐助が居たから俺は此処までこれた。お前の存在がいつの日も支えになっていた。」
「俺を闇から呼び戻してくれたのはいつだってあんただった。人として生きる事を教えてくれたのはあんただった。」

「なあ佐助――・・・ッ!」
呼びかけた途端、口から流れ出たひどく鮮やかな赤。
「旦・・・大将、もう喋っちゃ・・・駄目だ。」
ああそうか、あれだけの攻撃を浴びたのにどうりで楽だった訳だ。もう痛みを感じなくなっていただけなのだな。

これだけは、言っておかなければと・・・何か思うことがあった筈なのに。
いざという時上手く言葉に出来ぬものだな。

それは既に意識が朦朧としているせいもあるかもしれない。

留めておきたいのに、お前の声も姿もずっと遠くに感じる。

まだ―――駄目だ。





「大将・・・旦那。」
「ん―――懐かしい呼び名だな・・・・・・何だ?」


「―――ありがとう、“幸村”様―――・・・」




「佐助・・・。俺も・・・」

風が 止んだ。

「佐助・・・・・・・・・佐助・・・・・・?」

名を呼んでも、慣れ親しんだその声はもう返ってはこなかった。



もう両目は霞んで見えない筈なのに、何故か今ははっきりとわかる。
隣には、目を閉じて微笑む佐助が居た。
全身傷だらけだというのに、なんて穏やかな顔をしておるのだ・・・。

―――なあ佐助?
呼びかければ、その瞼を開けていつもの様に笑って応えてくれるような気がして。

―――佐助、起きてくれ なあ、佐助。
けれど、声はきっと、もう届いてはいない。

そうか



「・・・いってしまったのだな・・・・・・佐助。」

俺は二度と動かぬその者の肩を引き寄せた。

「馬鹿者・・・。まだ、話の途中ではないか・・・・・・。」
残された力で自身の首に掛かった六文銭を外すと、佐助と自分の手に通した。

二人で六文では足りぬか・・・・・・。
ならその時は、共に地獄に落ちてくれるか?


見上げれば、残酷な程青く晴れ渡った空。

この空の彼方にいってしまったお前を、俺もじきに迎えにゆくからな。


今はただ、共に過ごした日々を忘れずに眠ろう・・・。




それから数刻後、紅蓮の装束の武者とその忍が寄り添い眠る姿が発見された。







佐助―――・・・あのな。
伝えたかった事があるのだ。聴いてくれるか?




―――否、やはり“今度”にしよう。








アラームの音に目が覚めて、俺は夢を思い出し泣いていた。

あの景色を、俺は知っているような気がするのに。
あの言葉の続きを、俺は知っているような気がするのに。

ずっと捜していたのか。
――新たな生を受けてから

この心に欠けた、お前をずっと捜していたんだ。


そうか、今日が丁度あの日なのだな。


俺は家を飛び出してある場所へと向かった。


不思議なものだ。
景色などすっかり変わってしまった筈なのにどこか懐かしい匂いがした。

呼吸を落ち着かせて、神社の階段を上る。

懐かしさを感じたのは、そこにお前が居るような気がしたからか。



 ―――ずっと、待ってたよ。



五月の風に靡く赤茶色の髪の青年。

夢でもなく、あの頃の幻でもなく、確かに、・・・確かに目の前に。


あの頃の名を呼べば、その人はゆっくりと振り返った。

俺より少し高い背。
飄々とした変わらぬその笑顔。

もう一度名を呼ぼうとするも、噎せ返って上手く声に出せない。

「何泣いてんの。ほら、笑ってよ。」

最期の時に優しく響いたその声と同じ。
瞬間的に頬を伝うその雫が、あの頃と同じ熱を帯びる。



ずっと、伝えたい事があったのだ。

あのな―――――・・・





永く止まっていた時間が動き出す。



<終わり>

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