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【SS・拍手お礼SS】
<信玄→幸村>いつかくるその時まで

初めて出会ったのは、お前の父・昌幸が死んだ時じゃった。


―――幸村。

お前は最初ワシを憎んでおったな。

父を死なせてしまったのは、確かにワシの采配の誤りじゃった。

まだ幼さの残る顔を紅潮させて、お前はワシを睨み付けた。


その瞳に宿るは、穢れなき炎。



――見つけた。

ワシの

武田の未来を託せる者―――




その内に、お前はワシに無邪気に笑いかけてくれるようになった。


まだ若いお前の成長が楽しみで、嬉しくて。

ワシはお前の父親にでもなったような気分になる。


分かっておる。それは、錯覚であると。

どんなにお前を愛しく思うても、ワシはお前の本当の父親にはなれぬ。


だがワシにも、お前にしてやれることが一つだけある。


強うなれ、幸村。

誰よりも強き心を持ち、誰よりも強き漢となれ。

この戦乱の世を、“生きる”為に。


その為にワシにはこの拳が在る。

お前が道を誤った時は、この拳を振るい

お前が正しき道を歩んだ時は、この手でお前の頭を撫でる。


お前はようワシに尽くしてくれる。


ワシはもう、お前から十分過ぎる程の愛をもらった。



お前が純粋にワシを慕ってくれていること。

それが

それこそが今のワシの何よりの支えであること。



だがのう幸村。ワシはお前よりも先に老い死んでゆく。

人は皆、いつか別れの時が来る。

その時こそ、お前が真に独り立ちをする時。


その時は

―――今度は、お前の番じゃ、幸村。


残念なのは、ワシが去った世で成長したお前の姿をこの目で見れぬこと―――。


のう幸村。

誰よりもお前の成長を願うておるのに、

その時ワシは、お前の傍にはいられぬ。


本当は、どこかで

今のままでおれたらとも思う。


ワシの心は矛盾しておる。

いつか
お前といられなくなる日が来るのが怖いだなどと・・・。



ああ、いつもの様に、駆け寄ってくる音が聞こえる。

“お館様”と呼び慕ってくれる、この世で一番愛おしい――――――――


今は、余計なことは考えないでおくとしよう。

今はただ、お前との日々を大切に生きる。



いつかくる、その時まで。




<終わり>

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あきゅろす。
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