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「紅蓮桜花」
宣戦布告



夏――― 願うのは、共にいる幸せ。



――――――――――――――――――――――


甘味処・桜花庵の主人には悩みがあった。

娘が、恋をしている・・・。

「最近の桃を見ておればわかる。相手は最近よく来るあの若武者だろう?」
「ええしかも、桃の命の恩人の。」
「う・・・。それは感謝しておるのだが・・・。しかし・・・どうしたって無理だ。身分が違う。
どんなに想っていても、結ばれる事は無い。可哀相だが早く諦めてもらわねばなるまい。」
「しかし、それではあの娘が・・・。」
「不憫、ではあるが・・・。わしは、あの娘に普通の幸せを手にしてほしいのだ。」

「おじさん。」
「おお、颯太ではないか。」
「おれ・・・じゃ駄目かな。桜花庵、桃と継ぐの。」

「・・・何と。」
「おれが、桃を幸せにするから。」




―――――あとで知る事になる。
私の知らないところで、それは始まっていた。





「幸村さまっ!お待たせ致しました!」

「胡麻おはぎー!」
「この前みたいに慌てて食べちゃ駄目ですよ?」
「お・・・おお。」


“前に進め”

(うん、がんばる・・・。)


「・・・あ、あの、次の注文入るまで、隣に座ってもいいですか・・・?」
「も、もも勿論でござる。」

「・・・おい徳さん、注文頼まなくていいのかい。」
「早々に声かけたら、桃ちゃんが可哀相じゃねぇか。」
既に知れ渡ってしまっている恋は、周囲に温かい目で見守られていた。
(注文頼みにくいよ・・・っ。)

「・・・もらい。」
「あああ!!某のおはぎっ!!」
「颯太、何してるのっ!すみません幸村さま、すぐ新しいものをお持ちしますから。」
せっかく隣にいられたのに・・・・・・!


「あんた、武士のくせにとろいんだな。」
「な・・・っ。」
「おはぎみたいに替えがあるものはいいけど、ぼやぼやしてるうちに一つしかない物まで捕られるぞ。」
「どういう意味でござるか?」

「幸村さまに失礼な事してないでしょうね。」
「別に。ただちょっと、宣戦布告。」
「宣・・・ええ!?何言って・・・、」

「桃。」
「な、何?」
「後で話がある。」
「うん・・・?」


「宣戦、布告・・・・・・。」


「・・・渡さないからなって事だ。」



颯太は、呉服屋の末っ子で親同士が昔馴染みということもあり、幼い頃からいつも一緒だった。
元から何を考えているかわからないところはあったけれど、特にここ最近になってから、彼の言動がますますわからない。

「話って何?」
幸村さまが帰った後、勝手口で颯太が待っていた。
・・・何で黙っているの?

「・・・・・・桃。」
「ん?」
「少し、歩こう。」




日が暮れ始めていた。

大事な話がある、と颯太は私の手を引いた。
颯太の手は、いつの間にこんなに大きくなっていたのかしら。

夕暮れの丘はしんとして、夏も近いというのに少し寒かった。

「颯太、どうしたの?あらたまって・・・」
「おれは、桜花庵が好きだ。」
「あ、ありがと・・・。」
「桃は、桜花庵が好きか?」
「うん、勿論・・・。」

「おれと、桜花庵を継がないか?」

「え・・・。」
颯太は両の手で、私を包み込んだ。
その腕は暖かく、そして優しく・・・

「桃、おれと夫婦になってくれないか。」


・・・今、何て?
・・・夫婦、に?

・・・颯太と、私が・・・


「桃が、好きだ。」


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