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「紅蓮桜花」
そして私は恋を知る

このところ、だいぶ日が長くなってきた。もう、夏も近い。

「桃、あなた・・・・・・好きなひとができたでしょう?」
「え・・・・・・。」

颯太を含めた夕食の後、ふいに母さんに問われた。

「真田、幸村様。」

瞬間、鼓動が大きく鳴る。
「私が・・・幸村さまを・・・・・・?」

「最近のあなたを見ていればわかるわ。母さんには何でもお見通しなんだから。
あなた、恋をしている。」

「私、恋とかよくわからない・・・。」
「あら、まあ。」
母さんは呆れたように笑う。
「でもね、桃・・・・・・。」
「おばさーん、おれ、そろそろ帰ります。」
「まあ、颯太くん。またいつでもいらっしゃいね。」

「桃、その・・・飯美味かったぞ。」
「今日は素直ね。」
「・・・なあ桃、お前あの男の事どう思ってる?」
「あの男?」
「昼間の幸村って野郎だよ。」
「・・・ひ、秘密。」
「何だそれ。」

“好きなひとができたでしょう?”

だって、ほんとうにまだわからないんだもの。

「おれ、負けないからな。」
「何が?」
「・・・秘密、だ!」




その晩であった。
夜中に目が覚め、店の明かりに気付く。
椅子に腰掛けて晩酌をする父さんと母さんの姿を見た。


「桃も・・・いずれどこぞに嫁ぐ日がくるのだなあ。」
「まぁ、どうしたんです、いきなり。」
「いやぁ、角の家のお嬢さんが、呉服屋の長男と夫婦になるとかで。」
「まぁ、まだ十五ですのに。」
「それで、な・・・。」

「桃がもし嫁いでいってしまったら、跡継ぎがいなくなってしまいますわね。」
「桃が良い旦那を連れてきて、この店を継いでくれればこれより嬉しい事はないんだがのう・・・。」

父さん・・・・・・。

「だからのう、颯太がもし良ければ、婿に入ってもらおうかと思ってな。」

え、颯太・・・・・・?

「ま、待って。勝手にそんな事決めないでよ!」
「まあ桃、聞いていたの。」
「わ、私、結婚なんてしないもの。」
「何も今すぐではない。颯太なら、わしも母さんもよく知っておる。お前も仲良くやっとるじゃないか。」
「そ、そうじゃない・・・。私・・・!」

「桃。父さんの気持ちもわかってあげて。」
「だって、さっき母さん・・・。」

「桃、よく聞いて。あなたの気持ちは尊重してあげたいけれど・・・。
あの方は武士なの。いつ戦で討たれるかもわからない。
たとえ見初められたとしても、幸せは長く続かないかもしれない。
父さんは、あなたには平穏な人生を歩んでほしいのよ。」


「いつ死ぬかわからないのは、みんな同じよ・・・。」
私は思わず店の外へ飛び出した。

「桃!」


どうして
この気持ちを認める前に、そんな風に否定されなきゃならないの?


翌日、不本意だが、先日騒動を起こした友人を頼ってみる事にした。
「まだ怒ってる?悪かったってば・・・。
でもさ、私のお陰で少しは幸村様と進展できるんじゃない?」
「え?どういう事?」

「あんた、あたしが聞き出さなきゃ幸村様に相手がいるのかどうかなんて聞けなかったでしょ。」

・・・・・・!

「あんた、幸村様が好きなんでしょ?」

「な、なんで・・・・・・っ!?」
「あんだけ好き好き視線送ってて、しかもあれあんたの手作りなんでしょ?あれじゃあ周りの人間にだってバレバレよ。」
「えっええっ。」
「・・・まあ、幸村様本人はどうだか知らないけど。鈍そうだし。」

そんなにわかりやすいの、私―――!?
自分は人に言われてもまだピンときていないというのに。

「ねえ牡丹。私って本当に幸村さまの事好きなの?」
「はあ?」

「だって、どうなると恋っていうのかわからないんだもの。だから、牡丹に聞きに来たの!」
「あぁ・・・。今まで枯れてた恋愛音痴さんには難しいわよね・・・。」
「傍にいてどきどきするから恋なの?赤くなっちゃうから恋なの?会いたいな、って思っちゃうから恋なのかな?」
「そんな恥ずかしい初歩的な質問してくる人、現実で初めて見たわ。」
「・・・・・・・・・。」

「ねえ桃、ひとつ、教えてあげる。
それはね―――――――――――――――」




「・・・・・・うん、何となく、わかったような気がする。」

「桃。」

牡丹は大きく叫んだ。



「前に進め!」




その言葉が、背中を押してくれたような気がした。今まで悩んでいた事が、全部消えていくみたいに。
ありがとう、親友。

進んでみるね。



幸村さまが好き。 



私、恋をしました。


 <次頁 あとがき>

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