｢紅蓮桜花｣
ふたりごと・２
｢旦那、こないだ見てたよ〜。｣
｢何をだ？｣
｢桃ちゃんの指にちゅーって。わあ、大胆！｣
｢あ、あれは傷口を舐め･･･｣
｢じゃあ、ほかの娘･･･、例えばあの牡丹って娘がおんなじ状況だったら、してた？｣
｢それは･･･。よくわからぬ。｣
｢へへへー。｣
｢何だ？｣
｢いいんだよ、旦那はゆっくり成長すれば。｣
｢？？｣
｢･･･ところで旦那、最近団子代が･･･。｣
｢う。｣
｢かかり過ぎなんですけど。｣
｢ううっ。｣
｢もう少し抑えて、部下の給料上げるとかさ･････････あ逃げた。｣
｢･･･そんなに気に入っちゃったんだ。｣
佐助すまぬ。
しかしどうしても足を運びたくなってしまうのだ。
｢兄さん、最近よく来てんなぁ。おや、今日は一人なんだな。｣
｢お前さんあれだ、桃ちゃんに気があんだろ。｣
｢木？｣
｢桃ちゃんに惚れたんだろーってこった。｣
｢掘れた？｣
｢桃ちゃん可愛いかんなぁ。でも兄さん残念だったなぁ。桃ちゃんには颯太がいるからなぁ。｣
｢颯太･･･？｣
｢颯太！｣
｢ツケは効かないわよ。ちゃんと払ってもらうからね。｣
｢ちゃんと返すって。｣
｢そう言ってこの前も･･･こら、待ってってば！
･･･もう、颯太ったら。｣
｢颯太は桃ちゃんの幼馴染だぁ。｣
｢そ、うなのでござるか。｣
｢昔からいつも一緒だもんなぁ。喧嘩する程仲がいいっつうか。｣
｢颯太は桃ちゃんにベタ惚れだもんよ。｣
(べたぼれ･･･？)
それがどうゆう慣用句かは解らぬが、なんとなく桃殿がいつもより楽しそうに見えた。
桃殿は俺の前ではいつも微笑んでくれている。
だが颯太殿という者に見せる色々な表情は、俺は見た事がない。
｢幸村さま！｣
｢すみません、いらして下さったのに気付きませんで･･･｣
｢いや、いいのだ。｣
｢幸村ぁ？ってあの“真田幸村”か？｣
割って入ったのはいつの間にか戻ってきた颯太殿であった。
｢そういえば、この間も牡丹がそんな事言ってたっけか？｣
とたんに周りがどよめき始める。
｢本当かよ徳さん！真田幸村っていやあ、あの“虎の若子”と呼ばれる!?｣
｢紅蓮の二槍使いの!?｣
｢真田幸村!?｣
どこで聞いていたのか、たちまち民衆が集まってきた。
｢あの方が牡丹の言ってた真田幸村様!?｣
｢きゃあああ、意外とかっこいいじゃない!!｣
｢あ･･･う･･･いや、その･･･｣
一気に注目を浴びてしまった。
心の中で必死に佐助に助けを請う自分がいる。
黙って来てすまなかった。
｢幸村さま、こっち。｣
桃殿に引っ張られ、店の二階へと上がった。慌てて隠れたその場所は、小さな倉庫のような所であった。
一瞬、颯太殿と目が合ったような気がした。
｢かたじけのうござる。某の所為で店の中が騒がしくなってしまったようで･･･。｣
｢こちらこそごめんなさい･･･。あんな風になってはゆっくりしていけませんよね。｣
｢･･･。｣
｢･･･。｣
･･････！
落ち着くと、今の自分の状況にやっと気付く。
桃殿と密着してしゃがんでいたのだ。
恐らく桃殿も同時にその事に気付いたのであろうか。
肩がぴくん、と動いて。一瞬こちらを見た。
しかし、表に出るわけにもいかず、他に行き場も無い訳で、
そのまま二人並んで座る他無かった。
右肩が、桃殿の体温を感じている。
最初に会った時もやはり桃殿と密着していた訳だが、
むしろその時の方が密着していたと思うのだが、
何故だか今の方が緊張している･･･。
何か、喋らねば･･･。
｢桃殿！｣
｢は、はい！｣
｢そなたの作った団子はまこと美味い。｣
それは前にも言った気がする。
｢ありがとうございます。でも、幸村さま。
お団子を作ってるのは私の両親で、私じゃないんです。｣
｢なんと！そうであったか。し、失礼致した。｣
｢いいえ、私もいつか自分で作ってお客さんに食べてもらえるようになりたいんです。｣
｢某も！｣
｢そなたの作った団子が食べたい･･･。
だから、迷惑かもしれんが、ずっと、ずっとここに来たい。｣
･･･言った後で急に恥ずかしくなってきた。
｢私、一番に幸村さまに食べて頂きたいです･･･。｣
･･･桃殿･･････。
｢約束、でござる。｣
｢はい。｣
｢桃。｣
背後から声がした。
｢颯太！｣
｢みんな諦めて帰っちゃったよ。もう出てくれば？｣
｢そ、そう･･･。ありがとう。｣
また、目が合った。
｢桃、食材買ってきたからさ、また夕飯食べてっていい？｣
｢また？もう、しょうがないわね。｣
あ また見たことの無い表情。
｢いいじゃん。桃の父ちゃんおれの事、婿にしたい位気に入ってるんだし。｣
｢むこ･･････。｣
｢あ、彼は颯太っていいます。ここの近所に住んでいる幼馴染です。｣
｢どーも。｣
｢真田源二郎幸村でござる。｣
何故であろう。さっきから視線が突き刺さる。
桃殿の、幼馴染･･･
それは、決して届かぬ場所。
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