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「紅蓮桜花」
出逢い・3

「さなだゆきむらさま・・・。」

忘れてしまわないように、あの日からずっと繰り返す名。
そういえば、以前にもどこかでその名前を聞いた気もするけれど・・・。

また逢えないかしら。ちゃんとお礼がしたいのに。


もう一度、逢えたなら・・・。




「佐助ぇー団子食いたいー。」
「旦那、さっき朝飯食べたばっかでしょうがっ。」

佐助、と呼ばれた青年は、年下の主を連れて町を歩いていた。

「団子は別腹だ。」
「あーはいはい。そういえば俺様、この間良さそうな団子屋見つけたんだけど。」
「おお、まことか!」
「そこの看板娘が可愛い娘でさぁ。」
「む、破廉恥であるぞ、佐助!」

こんなやり取りを聞いている限り、誰も彼らが武田の“虎の若子”真田幸村と
彼に仕える真田隊の忍頭であるだなどと思わないだろう。



「はい、みたらしお待たせ致しました。」
「あんがとよ桃ちゃん。今日も可愛いねえー。」
「いやだわ、徳さんったら。」

町の一角に「桜花庵」という甘味処がある。
中年の夫婦と一人娘が店を切り盛りしていた。

「桃ちゃん、足はまだ痛むかい?」
「ううん、もうだいぶ平気よ。もう・・・ふた月も経つのですもの。」

そう、あれからもうふた月も経ってしまった。
やっぱり、もう会う事はないのかしら・・・。

でも・・・・・・



「桃・・・、桃、お客!」
母親の声にはっとした。
「いらっしゃいま・・・」


・・・うそ・・・・・・・・・・・・



「おお、良い匂いがするな。」
「旦那、よだれよだれ。」

あの方が、いる。

「幸・・・村さま?」

「む?」

「真田幸村さま・・・。」

あの方が、私の目の前にいる。

「ふた月前、山で崖から落ちたところを助けて頂いた・・・」
「おお!あの時の・・・桃殿、であったな。」

名前を覚えていてくださったなんて・・・。

「あの時は、本当にありがとうございました!」

え、なになにどうゆう事?と隣の男性が割って入る。


「へーえ、旦那が女の子助けたんだぁ。旦那も成長したねぇ。」
「しかし、怪我は治ってきておるのだな。本当に良かった。
そうか、あの時はよもぎ団子の材料を摘んでいたのだな。」

幸村さまの前に、山盛りの団子を運ぶ。

「まだ注文をしていないのだが・・・?」
と言いながらも目がキラキラしている。

「まあまあ、あなたが桃を助けてくださったんですって?なんとお礼を申し上げたらよいか・・・。」
「こっちは母、です。これは私からのお礼です。たくさん召し上がってくださいね!・・・幸村さま。」

「そうか、かたじけない、桃殿、母上殿。では頂くとしよう!」

幸村さまは、嬉しそうに団子を頬張っている。私も嬉しいな。

また、逢えた。
逢いたいなって思っていたら、本当に目の前に現れた。


あの日。
初めてのことが多すぎて、その夜は中々眠れなかった。
崖から落ちて、怪我をして、心細くなって・・・。そんな時に、この方が現れた。
武人だってすぐにわかった。すごく真っ赤な装束・・・。

あなたは、怪我した私を優しく介抱してくださった。
初めて、抱きかかえられた。びっくりして、恥ずかしくって、全然顔が見れなかった。
なにかしら。ふわふわして、どきどきして、今まで、こんな事なかったのに。

家に帰って、案の定父さんと母さんに滅茶苦茶心配され怒られた。
「何?この汚い布切れ。捨てるわよ。」
「駄目っ母さん!!」

これは、ね。

私とあの人を繋ぐもの。
持っていたら、また逢えるような気がして。
この鉢巻が、めぐり逢わせてくれるんじゃないかって。


「鉢巻・・・・・・、そうだわ・・・!」



「まっこと、美味かったでござる!」
「うふふ、ありがとうございます。幸村さま、また来てくださいね。」

私は、幸村さま達が見えなくなるまで見送った。さて・・・
「母さん、私ちょっと出かけるから。」

「えぇ?ちょっと、店は?桃!!」


もう一度、賭けてみてもいいかしら。
今度あなたに逢えたならば・・・・・・



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