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「紅蓮桜花」
幸村殿の恋人・4

―――俺は、そなたの事を―――――・・・



お館様は、桃殿の為に宴を開いてくださるそうだ。
「お前の家の者達がえらく張り切っておるそうじゃな。」
「そ、そうなのですか・・・?」
「何せ主人の記念日じゃからのう。」

俺の、記念日・・・?



―――その頃の桃殿。

部屋に残された桃は、まずは大きく深呼吸をした。

(さっきは・・・幸村さま、何を言おうとされていたのかな・・・。)
それとも、何かなされようと・・・?
(ううん、何でもないって言われたのだもの。気にしないようにしよう。)

けれど、自然と顔が緩んでしまう。
(そうか・・・幸村さまも、初めてだったんだ。)
と。


さて、改めて・・・。
(ここが幸村さまのお部屋・・・!
上田のお部屋にも上がらせていただいたけれど、ここは“今現在”の幸村さまのお部屋・・・!
幸村さまが普段生活なされているところ・・・!)

桃ははしゃいで床に転がってみたり、机にうつ伏せてみた。

「あの・・・桃・・・ちゃん?」
「さっさささ佐助さんっ!!い・・・いつからここに・・・?」
声にはっとして起き上がると、いつの間にか背後に迷彩服の忍が立っていた。
「えーと、最初から・・・だけど。」
「!!!!」
桃は浮かれて“幸村さまのいる空間”を満喫していた自分を見られていたかと思うと、一気に血の気が引いていった。

「大丈夫だって。別に俺様、言ったりしないから。」
涙目になって無言の訴えをする桃を見て、佐助は吹き出した。
(可愛いね、桃ちゃんは。)



夕刻になり、桃殿を連れ再び入城する。
広間にはご馳走がずらっと並び、武田に仕える武将が勢ぞろいしていた。
「あの、何だか盛大過ぎて申し訳ないのですが・・・。」
確かに・・・。
俺にとっては大事なお客人であるが、わざわざ武田の者が集まって城で宴会までしてくださるとは・・・。

これもお館様が呼びかけてくださったからに違いない、お館様の人徳の賜物である。―――そう思っていた。

「ささっ幸村殿と桃殿はこちらに。」
案内されたのは、本来お館様が座るべき上座。

「待たれよ・・・!そ、某がここに座れる訳が・・・っ!!」
「構わぬ。」
お館様は俺と桃殿を無理やり座らせた。
「今宵の主役はお主らじゃ。」

「しゅ、やくでございますか・・・?それでしたら桃殿お一人だけでは・・・」

「では始めると致そう。今日はめでたき日よ。」
「よ!御両人!」
「お幸せに!」

・・・?・・・・・・?


「幸村が初めて恋人を連れてきた、まっことめでたき日よ!!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・?

「えっ。」
隣で桃殿が小さく叫んだ。

「・・・今、何とおっしゃいましたか?」
「む、聞こえていなかったのか?お前が、人生初の恋人を連れてきた、めでたき―――・・・」
「こ、い・・・?」

「隠さずともよい。桃殿は、本当は幸村の恋人なのであろう?」


こ・・・・・・

「こ・・・・・・っ、こ・・・っここここここここここここここ恋人ぉっ!!!????」

「何を今更慌てておるか幸村。お前と桃殿の関係はどう見ても恋人同士であろう。」
「なな何をおっしゃいますか、恐れながら、は、ははははははは破廉恥でございますぞお館様ぁ!!!!桃殿は友人、と申したではございませぬか・・・っ!!!!」
「だがのう、」
「桃殿とは、決してそのような間柄ではございませぬ!!!!」

言い切った。
そう口に出さないと、何かが弾けてしまいそうで。念を押しておかねば、また変な事を考えそうになる。

「・・・・・・・・・。」
桃殿が、ふとさみしそうな顔をした気がした。

すると、お館様が立ち上がられた。

「この、馬鹿者がぁああああああ!!!!」
「ぐああああっ!?」

お館様の拳骨に吹っ飛ばされた俺は庭の石灯籠を越え塀に激突した。

痛・・・たたたたた・・・・・・。

「ゆ・・・幸村さま!?」
驚く桃殿の声が遠くに聞こえる。

「男にならぬか、幸村よ!心が成長出来ぬようでは、真に大切なものも見えぬぞ!」


・・・それは、どういう・・・?


「どうした?今日はかかっては来ぬのか?」

「・・・ぅお館さむぅあああああああ!!!!」
はっとして、お館様の元に駆け戻り拳を振るい返した。
「幸村ぁあああああ!!!!」

「あのっ佐助さん、どうしましょうお二人が・・・っ!」
「あー大丈夫大丈夫。いつもの事だから。」


それから暫くお館様との殴り合いが続いた。

「幸村さま、ほ、本当に平気なのですか・・・?」
「日常茶飯事でござる故、心配は無用でござる。」
「え、あれを毎日・・・。」

「・・・男になれ、とはどのような意味でござろう?」
お館様のお言葉を繰り返す。
「幸村さま・・・?」
桃殿は小首を傾げて俺を見る。
「いや、・・・何でもござらぬ。」

「すっかり遅くなってしまったのう。桃殿、今宵は泊まっていくか?」
「そんな、これ以上ご厄介になる訳にはまいりません。両親も心配致しますので・・・。」
「つまらぬのう・・・。まあ、仕方あるまい。幸村!桃殿を送り届けよ。」
「は!」
この時お館様は桃殿に何やら囁かれていた。

「すまんのう桃殿。ワシの教育が足らぬせいで、どうもおなごの気持ちに疎い男に育ってしまったようじゃ。」
「い、いえ・・・私なら大丈夫です。」

「幸村の事が好きか?」
「・・・はい・・・・・・大好きです。ですから、こうして共に時間を過ごせるだけで私は幸せです。」

「桃殿。・・・幸村の事を好いてくれてありがとう。」
「何故、お礼など・・・!」
「好いてくれたのがそなたで良かった、という意味じゃ。またいつでも来て欲しい。」
「信玄さま・・・。いえ、お館様。本当にありがとうございます。」


「・・・ワシがきっかけを与えてやらねばならぬか。」
お館様はにやりと笑っておられた。

「桃殿、準備は良いでござるか?」
「はい、幸村さま!」
呼び掛ければ、そなたはいつだって笑顔で応えてくれた。


いつからか、俺の心に生まれた疑問。

―――俺にとっての、桃殿。

ずっと、答えが出ぬままなのだ。

 “お前と桃殿の関係はどう見ても恋人同士であろう。”

違う!まことに、そういう関係ではござらぬ!!

そのような感情、武人には・・・俺には必要無い。

だが、本当はただの友人とも言いたくは無かった。
ならば何だというのか。その答えが見つからぬから、先程はああ言うしか・・・・・・。


彼女を馬に乗せ、夜風を切りながら駆け抜ける。
目の前の桃殿の髪を気付かれぬように一すくいした。

ああ、今この時がとてもかけがえの無いひとときなのだ。


もっと、上手く伝える事が出来れば良かった・・・・・・・・・。



馬から降りた桃殿を見送った。
「今日は、とても素敵な一日でした。」
「・・・先程の言葉、本当は少し偽りがあるのでござる。」
「え・・・?」
「友人だと申した事・・・。まことの某にとってのそなたは・・・その、上手く表現が出来ぬが、単なる友人よりももっと尊い存在なのでござる。」
「ただのお友達より上って事ですか?」
「そうではなく・・・」

俺は、思ったままを口にした。

「きっと・・・一番大切な存在なのでござる・・・・・・!!」
「え・・・?」
「あ、い、いや・・・・・・い・・・今のは聞かなかった事にしてくだされ!!」
「幸村さま・・・・・・っ!?・・・・・・行ってしまわれた・・・。」



俺にとっての一番大切は、いつだってお館様であった。

いつからであろう
  
そなたが
俺の心を占めるようになったのは




「桃?お帰りなさい。」
少女が家に着くと、父と母は笑って出迎えてくれた。
「父さん、母さん。・・・向こうのお家、どうだった・・・?」
「お前が心配するこたねえよ。」
「でも・・・。」
「何と言われようと、お前の気持ちは変わらねえんだろ?だったら堂々としてろ。」
「・・・ありがとう、父さん・・・。」


帰り道、夫婦は二人並んで星を数えながら歩いた。
「先方にこっぴどく怒られましたわね。」
「その割には嬉しそうだな。」
「いえ、ね・・・。桃はいつか、ほんとうに幸村様の元へいく気がするのです。」
「・・・・・・・・・。もし・・・もしも万が一、そうなったとしても、うちの身分じゃ正室ってやつにはなれねえんじゃねえか・・・?そんなの桃が可哀相だ。」
「それでも、あの娘は望むでしょう。好いた人と、共にいる未来を。」





一番大切なそなたと、
今共にいる事ができればそれで良いと思っていた。

だが―――・・・


ふと朱羅を止め、空を見上げた。



―――夜空の星々に願う

どうか
共にいる未来を・・・・・・



 

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あきゅろす。
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