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「紅蓮桜花」
傷だらけの祝福・1

もしあなたに“その”言葉を言われたら、きっと私は立ち直れなくなる。



「私・・・あなたとは夫婦になれない。」

その日の午後、私は颯太に打ち明けた。

「颯太の気持ち嬉しかった・・・。私の事、ずっと想っていてくれて・・・。だけど、だからこそ・・・このまま夫婦になったら、颯太をもっと傷つけてしまう。」
「そんなに、あいつがいいのか・・・。」
「ごめんなさい・・・。」

「・・・そう簡単に破棄出来ると思うか・・・?」

「・・・颯太・・・?」


それでも・・・もう決めたの。

気持ち・・・伝えなきゃ。早く・・・
あなたに、言われてしまうその前に。


(幸村さま、好きです。)

(幸村さま、お慕い申し上げております。)

(初めてお逢いした時から、あなた様の事を・・・)

・・・何て伝えよう・・・・・・。

「・・・それ位、自分で考えなさいよ。」
「考えたってば!だからどれがいいか聞いてほしいの!」
「いちいち恥ずかしい事言い出すのね・・・あんたって。大丈夫よ、想いを込めて伝えれば。」
「う、うん・・・。」
「・・・ほら、いらしたわよ。」

いつもの時間。
・・・幸村さまが、近づいてくる。
どうしよう、もう逃げ出してしまいたい。

心臓がばくばくいってるし、手に変な汗かいてるし、足元なんかふわふわしてるし、
もう、泣きそう。

「桃殿。」

「ゆ・・・幸村さま。」
「おはぎを一つくだされ!」
・・・いつもの様に、幸村さまにお茶とおはぎをお出しした。

「幸村さま、わ、私の話を聞いていただけますか。」
今はまだ、他の客は来ていない。

「その前に!」
幸村さまはお茶を一気に飲み干した。

「某・・・もう一度、聞きたかったのでござる。本当の、話なのでござろうか。・・・桃殿と、颯太殿の・・・話。桃殿は、その・・・否定なされていたので。」

「・・・私には、前から想う方がいるのです。」
幸村さまを、真っ直ぐと見つめて告げる。

「なんと・・・、そうでござったか。」

「あの、その方はあな・・・」
「では、そちらの者と祝言を挙げる話でござったのか。それで桜花庵は安泰、という事でござるな。」

「え・・・・・・。」
「前から決まっていた事なら、某にも教えてくださればよいのに。水臭いではござらぬか。」

幸村さまは、満面の笑みで話している。



「桃殿、その者と幸せになってくだされ。」



あ・・・・・・・・・・・・・・・

「あ・・・・・・はい・・・ありがとうございます・・・・・・。」
「して、桃殿の話とは何でござるか?」
「いえ・・・いいんです。」

暫くして幸村さまは帰っていかれた。

「桃・・・、」
牡丹は終始黙って聴いていてくれた。

「・・・祝福されちゃった。」
「桃・・・あの人はあんたの気持ちわかってないだけなの。だから・・・、」
「・・・ごめん牡丹。・・・・・・言えなかった・・・・・・・・・。」


 “幸せに”


その言葉だけは、聞きたくなかった。
可能性を、
私の事を好きになってもらえる可能性を、全否定されてしまったようなものだもの・・・。

「・・・・・・言えなかった・・・・・・・・・。」

「桃・・・駄目、諦めちゃ。」


うん・・・・・・。

こんな事でめげないんだから・・・。

はっきり「嫌い」とか言われた訳じゃないんだから・・・。

だから
傷つくな、こんな事で泣くな。

・・・まだ、がんばれるでしょ・・・・・・?


幸村さまの座っていた席に腰掛け、顔を伏せた。
今、きっとすごく情けない顔してる・・・・・・。

席はまだ、少し温かかった。




「・・・泣いて、おるのか?」

「ゆ・・・幸村さま!?」

顔を上げると牡丹の姿は無く、代わりに帰られた筈の幸村さまが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「牡丹殿に呼び止められたのでござる。桃殿の傍にいてくれと・・・。」

(牡丹・・・・・・。)

それから幸村さまは、ずっと傍に居てくださった。
「・・・泣いていた理由、聞かないんですね。」
「言わないのは、知られたくないからでござろう。」
「・・・・・・・・・。」

そうじゃない。
私は、あなたに知って欲しいの。

私に、気づいてほしいの・・・・・・


誰もいない店に二人きり。
今なら

きっと今なら・・・・・・








 「幸村さまが好きです・・・・・・・・・。」









やっと、

言えた・・・・・・・・・




緊張と不安でまた涙をこぼしながら、私は幸村さまの次の言葉を待った。

「・・・光栄にござる。」

・・・それは・・・

「良かった・・・。そなたとは良き友人の間柄であると思い込んでいたのでござるが、その思いがもし某だけのものであったらと少々不安であったのだ。」

「友人・・・ですか。」

「まことに良かった・・・。桃殿も同じ気持ちであったのでござるな。」
「あ・・・はは、はい・・・。そう、ですね・・・。」

“友人”と。
折れかかった心は、止めを刺されてしまった。

「お茶・・・入れてきますね。」

私は席を立った。
この間に、涙が止まってくれればいいのに。

ふと、考える。

もし、もしもこのまま颯太と夫婦になっても、幸村さまとこうしていられるのであろうか。

もし
今のままでいられるのだったら、ここまで泣かなくてもいいのかもしれない。何も、今生の別れになる訳でもない。


・・・違うの

―――あなたに愛してほしかったの―――――


どうしよう、涙、止まらないよ――・・・

「幸村さまは、これからも桜花庵に来てくださいます?」
「勿論でござる!それに、約束したではござらぬか。桃殿の団子を一番に食すのは某だと。」
「・・・そうでしたね。」

まだ春の頃、幸村さまの隣で語った夢。
いつか自分で作った団子を出せる時がきたらば、その時は一番に幸村さまに召し上がっていただきたいと。


なら

その約束を守れるのは、私しかいないのですね・・・。



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