「紅蓮桜花」
その後の二人・1
はじめて、でした。
好きなひとに
・・・口づけ、されてしまいました。
―――行ってしまった・・・・・・。
これは事故だって事くらいわかってますから。
たまたま、ぶつかっただけなんですから。
だから、これは無かった事にして。
きっと幸村さま、いつまでも気に病んでしまうでしょうから。
次会うときは、いつもと同じように、何も無かったかのように、接するの。
気にしてませんって言わなくちゃ。
でも
まだ、あなたの熱が残ってる・・・・・・。
ねえ幸村さま。
今だけ、嬉しかったって思っても、いいですか?
「桃、お帰り。」
「牡丹・・・!」
家路に就くと、親友・牡丹が待ち伏せていた。上田へ行くのに彼女を口実に使ってしまった事を、佐助さんから聞いたはずだろう。
「ごめんなさい・・・私、勝手に・・・。」
牡丹は私を抱き寄せた。
「馬鹿桃・・・一人で悩むんじゃないわよ!・・・何の為に私がいると思ってんの。」
「牡丹・・・・・・。」
「で、楽しかった?」
「・・・うん。」
「そ、なら良かったわ。答えは、ちゃんと出たのよね?」
「・・・“前に進む”よ・・・・・・。
今のままじゃ駄目なの。颯太と、ちゃんと向き合ってくる。私の気持ち、全部話してくる・・・。誰に何と言われようと、想いを絶つなんて出来なかったの・・・。
私、幸村さまといると幸せなの・・・・・・。」
牡丹は頷いて応えてくれた。
「なら、ちゃんとそう本人に伝えなきゃ駄目ね。」
「幸村さまに・・・・・・?」
「私が思うに、あの男はものっっっ凄く鈍そうだから、ちゃんと“好き”って伝えないと駄目よ?」
「う、うん・・・・・・。」
「大丈夫、あんたの気持ちは必ず伝わる。」
「・・・がんばる。」
「偉いわ、桃。」
牡丹は私の背中を軽く叩いた。
「牡丹、それで、あのね・・・」
「そうだわ、進展あったの?」
「!!!」
先程の事をまた思い出し、顔が紅潮してしまう。
「・・・あったの!?あったのね!?」
「ち、違うもんっ。何も・・・っ。進展とかじゃ・・・っ。」
「いいわよ、また今度ゆっくり聞かせてもらうわ。さ、もうご両親の所に帰りなさいな。」
「うん。本当に、ありがとう牡丹!」
私は大きく手を振って牡丹と別れた。
「―――盗み聞きなんて悪趣味よ、颯太。」
「・・・うるっせ。・・・なあ・・・桃、あいつと一緒にいたのか?」
「だったら?」
「お前、おれの事往生際が悪い奴とでも思ってんだろ。」
「あら、自覚あったのね。」
「わかってるさ。このまま形だけ夫婦になったって、桃の心は繋ぎ止められない。」
「でも、自由にさせてはあげないのね。」
「・・・渡すもんか・・・。桃は、おれのものだ・・・・・・。」
「―――いいけど、あの娘を傷つける者は誰であろうと許さないから―――」
牡丹と別れた後、家に戻った私は早速明日の店の準備をする。
「・・・伝える・・・。」
この気持ちを伝えたい。確かに佐助さんにはそう宣言した。
「けど、今すぐとかじゃ無くて、もっと・・・ええと、親しい間柄になれたらで・・・っ。」
し、親しい間柄って何よ自分!?
「ちゃんと“好き”って伝えないと駄目って・・・言ってた。」
・・・ううん、人に言われたからじゃないでしょ。
かぶりを振り、両の頬を軽く叩く。
「ここで悩んでたら、私何も変われない。本当に幸村さまと一緒にいたいなら、進まなくちゃ。」
全ては、そこからなのだから。
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