[携帯モード] [URL送信]

「紅蓮桜花」
秘密の旅路・6 眠れぬ夜


遠い記憶の中で、そのひとは永遠に微笑いかける。

記憶の中でしか逢えないけれど、俺はもうさびしくはない。



その夜。

「どうゆう事だ?」

「そのままの意味合いでございますが・・・。桃様は今晩、旦那様と同室で休まれる事になっております。」
「信幸様より、桃様のお部屋は旦那様と同じで構わないと承っております故。」

「兄上・・・!!」
「旦那、よしなって。変に抗議したら二人の関係怪しまれるよ?桃ちゃん追い出されちゃうかもよ?」
「むむ・・・。では、」
「部屋出ていこうとしても、外には侍女がいるよ?」
「ならどうすれば!」
「一緒に寝ればいいじゃない。」

「い・・・・・・っ!?」
「・・・しょ・・・・・・!?」

「二人同じ反応どうもありがとー。では、どうぞごゆっくりー。」
「待て、佐助!」
「佐助さん!」
「旦那、桃ちゃん、おやすみなさーい。」

それから、俺と桃殿は部屋の真ん中に敷かれた一組の寝床を挟んで向かい合ったまま動けなくなっていた。

「・・・某は部屋の隅で壁を向いているので、桃殿はこちらで眠ってくだされ。」
「幸村さまを差し置いてそんな事出来ません!私は床で寝られますから、幸村さまがお布団で・・・。」
「ならぬ!おなごを床の上に寝かせるなど・・・。某こそどこでも寝られるので、遠慮せず・・・。」
「そんな駄目です!私こそ・・・」
「某は・・・」

「・・・きりが無いような気がしてきました・・・。」
「もっともでござる・・・。」

「・・・この際、朝までお話などして起きているっていうのはどうです?」
「おお、いい考えでござる。」

俺と桃殿は寝床の上に並んで座った。

「では、何の話を致そうか。」
「私、幸村さまのお小さい頃の話が聞きたいです。」

「某の小さい頃?」

そうだな・・・・・・。


この屋敷の離れで俺は信幸兄上より一年遅く生まれた。

兄上に比べ俺は身体も小さく、何を覚えるのも遅かった。

誰も俺に見向きもしなかった。

期待されていなかったのだ。


さびしくなっては、俺は母上の元に泣きついた。

「弁丸はほんとうに甘えん坊さんね。」

俺の本当の母上は身体が弱く、離れから外に出る事は無かった。


ある時、母上は教えてくれた。

「弁丸。あなたが輝こうとするならば、きっと誰かがその小さな光を見つけてくれますよ。」

―――ほんとう?

「その人は、あなたの主君になる人かもしれない。部下になる人かもしれない。あなたが、心から愛する人かもしれない。」

―――ははうえは、ちがうの?

「もちろん母も、です。でも・・・ごめんね。母はもうすぐ、あなたをおいていかなければならない。
けれど、母はあなたをずっと見ています。あなたが輝く限り、あなたの光をすぐに見つけますからね。」

母上は泣いていた。


それから暫くして、母上は亡くなった。






母上。

俺を見つけてくれる人は本当に現れました。

今の俺には、お館様も、佐助も、武田のみんながいてくれます。

それに、


「幸村さま。」



―――“幸村さまの良いところなら、私がたくさん知っています!”




桃殿が傍にいてくれる。

「次はそなたの番でござるな。」



俺は今、幸せだ。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!