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「紅蓮桜花」
秘密の旅路・4 二人の娘

甲斐も良いところであるが、やはり生まれ育った上田の地が自分には合っている。

・・・まあ、毎度毎度の兄上の抱擁には正直困るのだが、
久しぶりに“彼女たち”にも会えるしな。




桃殿を案内した後、俺はある人に挨拶をしに向かっていた。

すると

「お父様ー!」
「お父様ー!」

廊下の向こうから二つ並んだ軽やかな声が、飛びついてきた。

「おお、いち、梅、元気にしておったようだな。」

そう、彼女達は・・・

「お・・・、父、様・・・・・・?」

その声は

「桃殿!?部屋におられたはずでは!?」
い、いかん!

桃殿はふらつきながら言葉を続ける。

「その、幸村さまを捜していて・・・。それで・・・。
幸村さま・・・お、子様がいらっしゃったのですね・・・。」

「ち、違う!本当の子ではなくて・・・!」

「いちとうめは、お父様の子ではないの・・・?」

澄んだ、穢れの無い大きな瞳が見つめる。

「うう、そうでもなくて・・・!」




「養女・・・ですか。」

誤解を受ける前に、
ここに来る前に話しておくべきだった。


 いち、七歳。梅、五歳。

二人の少女は、真田の家臣であった、高梨内記(たかなしないき)殿の娘の子たちであった。
先の戦で高梨内記殿は死に、二人の母も、一年前に病で亡くなっていた。

二人には、身寄りが無かった。


桃殿をまじまじと見つめている。

「この方は、もしかしてお母様になる人?」

な、何を言っておるのだ!!

「お、母、様・・・っ!?」

ほら、桃殿が困っておるではないかっ。
「いや、ええとだな・・・。」

「近いうちに夫婦となるのなら、いちと梅にとっても母になるのであろう?」
いつの間にか兄上も参加していた。

め、めおと・・・・・・!!
「やったあ!」
「お母様だあ!」
二人の娘達は桃殿の周りをくるくると回っていた。

「ね、お母様!一緒に遊んで?」
「遊ぼ!」

「えっと・・・うん。じゃあ、何して遊ぼうか?」


二人は桃殿を引っ張って庭へ行った。


「源二郎。お前がおなごを迎える日が来ようとはな。
きっとお前の事だから、いつまでも女っ気が無いのでお館様が業を煮やして選んでくださったのかと思ったが・・・。
娘を見たとき判ったわ。お前が自分で見つけ出した娘なのだろう?」
「え・・・。」
「よう似ておる。“あのお方”に。」

桃殿が、誰に似ておるのだ・・・・・・?


幼い娘達を連れてはしゃぐ桃殿を、俺はずっと見ていた。




「―――寒松院様、どうなさりました?急に庭にお出でになられるなどと・・・。」

「野兎が一羽迷い込んだようなのよ。見つけて追い返してやりましょう。」

桃殿に近づくその姿は、まさしく母上であった。








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