[携帯モード] [URL送信]

「紅蓮桜花」
秘密の旅路・3 嘘

「ここが上田城・・・。」


“城”と呼ばれるものをこんなにも間近で見たのは初めてで。

想像していた高くそびえる建物は無いけれど、それでも敷地がとても広いのがわかる。

「すまぬ、ここまでしか案内出来ぬが・・・。」
「そ、そんな、中まで入れるなんて思っていませんから・・・。」
「いや・・・そういう訳では無いのでござるが・・・。」

「源二!?」

「うをっ。見つかってしまった!」

「源二郎―――っ!!」
「や、やめ―――むぎゅっ。」
あたふたする彼に抱きついてきた、その男性を一言で説明するならば。

“大人版幸村さま”?

「あ・・・兄上、ご壮健そうでなにより・・・。」


・・・お兄さん!!


「まったく、源二は実の兄にも全然会いに来んのだから。しかし前会った時より大きくなったなー!でも相変わらず可愛いぞー源二!!ぐりぐりー!!」
「や、やめてくだされっ。」
力一杯撫で回され、幸村さまの髪には変なクセがついていた。

「それに、源二源二と・・・。たまに会ったのですから、ちゃんと名前を呼んでくだされ。」
「ほんと細かいなーお前は。ええと・・・今は“信繁”だったか。」

・・・え、信繁って?

「ゆ、幸村さまって本名じゃ無かったんですか――!?」
衝撃の事実に思わず声を上げてしまった。

だとしたら、今まで偽りの名で通されていたという事で。
少し、悲しくなる・・・。

「いや、何というか、“幸村”はお館様――武田信玄公より頂いた名で・・・。確かに実名は“信繁”だが、某は“幸村”が気に入っているが故、」
「えっと・・・“幸村さま”とお呼びしても良いんですよね・・・?」
「勿論でござる!」
名前がたくさんあるってややこしいな・・・。

「して、この娘は誰だ?」
お兄さんが初めて幸村さま以外を、私を見る。
その目は、幸村さまに似て澄んでいて・・・でもどこか非なる氷の目。
「わた、私は―――」
「その、俺の、ゆ、友・・・」
「許婚ですよ。」
さらっと言いのけたのは佐助さんだった。って、え・・・許・・・


いいなずけ―――!!!???


「許婚・・・!?聞いていないぞ、源二郎、いや信繁。そういう事は私に一言報告してくれてもいいじゃないかっ。」
「俺も知ら・・・ぐえっ。」
佐助さんは幸村さまと私を引き寄せて耳打ちする。

(桃ちゃん、旦那も。今は俺様に合わせて。)

って、どうすればいいの!?
「お、おおお初にお目にかかります、桃・・・と申します!」
ぎこちなく笑う私を一瞥して、お兄さんはふん、と鼻を鳴らした。

「まあいい。泊まっていくのだろう?中に入れ。」

え、泊まり・・・。

泊まり?



「佐助、何故あのような嘘を―――い、いい許婚などと。」
「そう言うのが一番怪しまれずに済むと思って。だって下手すると、桃ちゃんの身が危ないかもよ?」
「真田の者がそのような事・・・。・・・だが、あの方なら確かに・・・。」

・・・・・・?



―――許婚・・・。
私は今、幸村さまの許婚・・・。

という目で、城内の人に見られているのかしら。
落ち着いて、桃。舞い上がっちゃ駄目。私はもう・・・・・・。

「桃ちゃん、ちょっと。」
「佐助さん?」

「親御さんに何て言ってきたの?まさか、黙って来たんじゃないよね?」
「・・・伝えてきました、よ・・・?」
「何て?」

「・・・・・・・・・牡丹の家に行くって・・・。」
「桃ちゃん・・・。」
「泊まる事になるなんて思わなかったから・・・。」
「え。上田まで日帰りで行けるとでも思ってたの?」
「お・・・思ってました・・・・・・。」

「・・・まあいいよ。俺様が牡丹ちゃんとこ行って口裏合わせるように言っとくから。」
「すみません・・・。」

「でも、嘘、だよね。
ほんとは泊まり掛けになるってどっかでわかってたはずだ。」

・・・・・・嘘・・・?


「だって桃ちゃん、あの事で困ってるんでしょー。ほら、颯太って男と。」
「どうしてそれを・・・!」
「俺様、忍だからね。」

知られていた・・・。

「・・・幸村さまも、知っていらっしゃるんですか!?」
「大丈夫、言ってないよ。」
「良かった・・・。まだ言わないでくださいね。結婚する事になるだなんて。」

「結婚!?結婚ってどうゆう事?」
「え、だって聞いていたのでは・・・?」
「俺様が見たのは、あの男が桃ちゃんに告ってたとこだけど。ねえ、どうゆう事さ!?」

失態。自分から話してしまったなんて。

「答えるんだ。」
それは柔らかくも冷たい声。

「佐助さん・・・。」

咄嗟に後ずさりしてしまった。

「どういう事って聞いてるんだけど。何、結婚って。」

佐助さんは私の背後の壁に腕をつき、逃げ道を失くす。
ず、ずるい・・・。

「だって君は・・・・・・、」
「・・・私だって、本当は・・・。けれど私の意志なんか・・・、どうしたって届かない・・・だから、」
「だから、家出したんだ?」

ハッとした。

「逃げて、来たんでしょ?」


そう、私は・・・


逃げ出した。

向き合う事に疲れて

颯太を 父さんを 母さんを 桜花庵を

全て
全て置き去りにして、



私は幸村さまを選んだ。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!