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「紅蓮桜花」
秘密の旅路・1 出発

「幸村よ。この七日間よう頑張った。」

「はっ。この幸村、これからも精進致しまする!」
「うむ、よう言った。どうじゃ、幸村。たまには故郷にでも帰ってゆっくり休むも良かろう。」
「し、しかしお館様。この幸村、お館様の元を離れる訳には参りませぬ!」
「ワシを誰と思うか!武田信玄、容易くくたばりはせんわい!」
「なれど・・・。」
「休暇も立派な修行の内じゃ!将たるもの、常に万全の状態でなければならん!」
「おおお、さすがはお館様!なれば此度の休暇、ありがたく頂戴仕りまする!!」
「おう!存分に身体を休めて来い!幸村ぁ!!」

「お館様ぁ!!」
「幸村ぁ!!」
・・・



「・・・上田、か。」
実際、帰るのは一年振りになろうか。
「信幸様に会うのも久しぶりだよね、旦那。」
「う・・・そうだな。」

だが今の俺には、故郷よりも休暇よりも果たさねばならぬ事がある。

「桜花庵の団子〜!!」

「あ、ちょっと!・・・まあいいか、あの事はまだ言わなくて。」


団子解禁!ああ、この日をどれ程待ちわびた事だろう!

それに・・・
会える。
やっと会える。

俺の・・・ゆ、友人、に。




「桃殿!」
たった七日振りだというのに、声をかけるのに緊張した。

「・・・・・・幸村さま・・・。」

「すまぬ、何日も店に行けず・・・。」
「幸・・・村さま・・・・・・。」
きっと、すぐにいつもの笑顔で迎えてくれると思っていた。
だが、

「・・・・・・・・・っ。」
「桃殿!?どうなされた!?」
こぼれ落ちるは、あの日と同じ大粒の涙。

「・・・お会い、したかったんです。幸村さまに、すごく、
・・・・・・・・・・・・会いたかった・・・。」

俺は、この時の桃殿の気持ちなど、知る由も無く。

「な・・・そ、そそそその・・・っ。な、泣かないでくだされ・・・っ。」
い、いかん!友人、友人だから慌ててはならん。
「・・・某も、桃殿に会いたかった。一番に、そなたに会いたかった。だから来たのだ。」
両の瞳が、ゆっくりとこちらを向く。
「訳あって外に出られなかったのだが、その間も、そなたの事を考えていた。」

笑ってほしい・・・。

そう思ったのに、彼女の涙は止まらなかった。
ど、どう致したのだ・・・。一体どうすれば・・・。

ふと、彼女が笑った最後の話題を思い出した。


「上田・・・・・・。」



「そうだ、上田に行こう!桃殿、今から某と共に上田へ参ろう!」

「上田・・・・・・?え、私が・・・今からですか!?」
「馬を連れてきておる。早いぞ。」
「ええと、そうでは無く・・・。」

「・・・すまぬ。迷惑でござったか?」
「いいえ、とんでもない!でも・・・・・・。」

「桃、桃ー?」

桃殿の母上の声だ。
「お母上にお会いするのも久しぶりでござる。あいさつせねば・・・。」
立ち上がろうとする俺の袖を、桃殿は引っ張った。
「幸村さま、・・・母に許可をとってきます。少しの間だけ、表で待って頂けますか。」
「そうでござるよな。それなら、某が直接・・・。」
「・・・お願い・・・します、から・・・。」
言った唇が、微かに震えていた。


「私を、連れて行ってください。」
現れた桃殿は、大きな風呂敷包みを背負いまるでこれから家出をするような格好をしていた。
だが先程とは違う、意思を持って前を見据えている、強い目。

「参ろう、桃殿。」
「・・・はい。」


そうして俺は桃殿を馬に乗せ、故郷・上田へと旅出った。



俺はまだ、何も知らなかったのだ。



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