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「紅蓮桜花」
序章


「さなだゆきむら?」

が、今巷で人気だという。

誰、それ。




「あんたはー。ほんっとそうゆう話に疎いわね。」
「うーん・・・。」

「武田の若武者。よく町にも来るらしいの。整った凛々しい顔!引き締まった身体!極めつけが屈託のない爽やかな笑顔!!」
はあ。

「あー駄目だわ、反応薄!桃、あんた絶対干からびてる!
信じらんないわよ、十六にもなって初恋もまだだなんて。」

噂好きのこの友人は、毎日店に来ては決まって最後に次の言葉を口にする。

「桃、はやく異性に興味持たないとあんたの人生枯れちゃうわよ!」

・・・放っておいて。


「ああ、もう日が陰る前に山菜を積みに行かなきゃならないのにっ。」
「はいはい、恋より山菜ですか。」

私は大きな篭を背負い、店を後にする。

「ってまた女一人でそんなとこ行くの!?せめて颯太連れて行ったほうが・・・」
「大丈夫よ、慣れているから。」

桃 十六歳。未だ恋の経験無し。





―――大丈夫、って言ったばかりなのに。



今目の前に広がるのは、見上げれば首が痛くなるほどの高い崖。私はその下で木の葉に顔を埋めている。

足が動かない。ああそうか、落ちる途中で木の枝にぶつかって・・・。

「誰か―――・・・って、誰もいないよね・・・・・・。」

途方に暮れて、とにかく痛くて。


“あんたの人生枯れちゃうわよ!”

なんでこんな時に、その言葉が出てくるのよ・・・っ。

情けなくて、私は少し泣いた。





それはまだ、あなたに出逢う前の話。






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